スタッフ総出でイベントをつくり上げ、子どもたちに遊びを通した学びを提供
「いまから秋祭りのイベントがあるので先に園内を見て回りますか?」
取材予定時刻の13時前に「東条湖おもちゃ王国」に到着すると、東条湖リゾート(公友不動産株式会社)の橋本匡史総支配人からそんな提案をいただいた。
「ぜひ!」ということで園内を案内いただくと……。
すでに園児たちがキッズ広場前に集まり、ステージショーにくぎ付けになっている。
「当園は子どもたちの〝体験〟を重視し、遊びながら学べるイベントや体験教室をたくさんご用意しているんです。このショーのあとは東条湖おもちゃ王国のはっぴを着て、ダイヤブロックのおみこしを引いて園内を練り歩いたり、太鼓や鳴子などの楽器を慣らしてお祭りを盛り上げたりするんですよ」
こうしたイベントや体験教室を取り仕切るのは、東条湖おもちゃ王国の社員たち。キャラクターとやり取りしながらステージを進行したり、子どもたちを案内したりする役割も含めてすべてだ。
「当園の仕事の内容は幅広く、本人の希望も考慮しながらいろいろな業務を担当してもらいます。イベント運営のスタッフもいますが、遊具や売店の社員にも協力してもらい、スタッフみんなでイベントをつくり上げていきます」
橋本総支配人の説明を聞きながら改めてイベント会場を見回すと、東条湖おもちゃ王国のはっぴを着たスタッフたちが持ち場で自身の役割を果たしているのが分かる。
イベントの見学を終え、甲子園球場2個分の広さを誇る園内を案内してもらうあいだ、目に入る〝あるもの〟の存在に気づく。ジェットコースターのレールだ。
これは「ループコースター」と呼ばれる乗り物で、前身の東条湖ランド開園当時はその高さがギネスブックに登録されていたほど。東条湖ランドを知る人たちにはお馴染みのジェットコースターで、加東市出身の取材班(40代)も子ども時代に何度絶叫したことか(ああ懐かしい……)。
ただし残念ながら現在は稼働しておらず、レールの一部がモニュメント的に残されているのみ。これにはハードからソフトへの戦略転換で生まれ変わった東条湖おもちゃ王国の歴史も関係している。
設備に頼らない新しい遊園地を――おもちゃ王国へのリニューアルで大成功
高度成長時代の1969年に兵庫県加東郡東条町(現加東市)にオープンした東条湖ランドは関西有数の遊園地として人気を博し、80年代後半の最盛期には約60万人の来場者数を記録した。
ところがバブル経済崩壊以降、関西の遊園地は淘汰の時代を迎える。最新の遊具を大規模投資で導入する戦略が当時の遊園地経営の主流だったが、バブル後の不況で母体企業の業績が落ち込むなか、ハード(遊具)に依存した集客が限界を迎えていたのだ。
東条湖ランドも例外でなく、存続が危ぶまれる事態になった。そんなとき、東条湖ランドと同グループの軽井沢プレイランドが1999年に「軽井沢おもちゃ王国」にリニューアルし、人気遊園地に返り咲いたのだ。
「〝おもちゃ王国〟という遊園地は、岡山県に本社を置く株式会社おもちゃ王国のフランチャイズシステムなんです。大きな投資を伴うハードに頼らず、子どもの学びに着目したソフト重視の運営方針に将来性を感じ、軽井沢プレイランドをおもちゃ王国にリニューアルしたところ、なんと来場者数が12万人から24万人に倍増しました。この成功を受け、東条湖ランドも急きょ、リニューアルに向けて動き出すことになったのです」
東条湖ランドのリニューアルプロジェクトが発足したのが1999年11月。以降、急ピッチで作業が進み、翌2000年7月20日に東条湖おもちゃ王国としてリニューアルオープンを果たした。
リニューアル後の成果は目覚ましく、年間平均来場者数は50万人を誇り、2019年度には延べ900万人の動員を突破。隣接する「ホテルグリーンプラザ東条湖」への波及効果も高く、東条湖おもちゃ王国にリニューアル後、客室の平均稼働率は従来の40%弱から70%にまで向上し、年間宿泊者数も10万人を数えるまでになった。
人気のおもちゃが勢ぞろい。「おもちゃの部屋」が人気の秘訣
なぜこれほど人気を得るようになったのだろう。まず前提は「ターゲットを0歳から8歳の子どもに絞ったことです」と橋本総支配人が説明するように、0歳から遊べる遊園地は意外と少なく、若年層の子どもを抱えるファミリー層の受け皿になった。
そのうえでポイントは、やはり代名詞ともいえる「おもちゃの部屋」だ。子どもに大人気のキャラクター、あるいは感性や個性を育む知育玩具などが計9つのパビリオンに勢ぞろいしている。
「0歳の赤ちゃんには玉ころがしやお絵かきなどで遊べるまなびのハウス、女の子にはリカちゃんハウスやシルバニアファミリー館、男の子にはトミカ・プラレールランドなど、お子さんの成長や興味関心に合わせて楽しめるお部屋が充実しています。各お部屋は冷暖房完備なので、季節や天候を問わずに遊べるのも受け入れられた理由のひとつですね」
さらに親子で利用できる遊具は20種類、イベントや体験教室も充実し、一日遊んだあとは隣接のホテルでゆっくり休める。小さな子どもを持つファミリー層にちょうどいい遊園地なのだ。
「さらに当園の特徴は何度も足を運んでいただけること」と同氏が付け加えるように、東条湖おもちゃ王国のリピート率は5割を超える。
「対象は0歳からなので、2人目、3人目のお子さんが生まれてもファミリーでご来園いただけますし、おじいちゃんおばあちゃんも含めた3世代でリピートしていただけるご家庭も多いですよ」
ソフト重視の遊園地だからこそ、求めるのは「心から動ける人」
そんな楽しい遊園地をつくり上げているのは「人」、つまり現場で働く一人ひとりのスタッフたちだ。遊園地スタッフの仕事内容は幅広く、具体的には次のとおり。
・遊具運転 :乗り物(遊具)の運転・運転補助、お客様の誘導など
・売店 :各販売店舗での接客、販売、呼び込み商品の陳列や整理など
・レストラン:園内レストラン・屋台での調理、盛り付け、接客、販売、呼び込みなど
・イベント :イベントやオリジナルショーの開催、おもちゃの部屋の点検や片づけなど
・駐車場 :駐車場での車の誘導、料金徴収、交通整理など
・ゲート :入口ゲートでのチケットの販売、もぎり、お客様の誘導など
「地元加東市の高校生を毎年8名~10名ほど採用し、遊園地の運営にあたっていただいています。採用後は弊社グループのある軽井沢での研修、各事業での研修後、本人の希望や適性などを踏まえて配属先を決定しています」と橋本総支配人。
なお東条湖おもちゃ王国の運営スタッフは、加東市に本社を置く公友不動産株式会社に在籍する。公友不動産とは軽井沢や箱根、白馬をはじめ全国でホテルやゴルフ場、テーマパークなどを運営する安達事業グループの一社で、次の5つの事業を地元加東市で展開している(5事業の総称が「東条湖リゾート」)。
・東条湖おもちゃ王国
・ホテルグリーンプラザ東条湖
・東条湖カントリー倶楽部(加東市で最も歴史あるゴルフ場)
・東条湖ビッグバイト(釣り堀)
・モビレージ東条湖(キャンプ場)」
「そんな私たちが求める人材は、仕事だから働くというより、子どもたちとの出会いを大切に、心から動ける人。子どもたちに『行ってらっしゃい』と笑顔で手を振ったり、『また来てね』『お帰り』と心からの気持ちで伝えたりすることができる人であれば、仕事のスキルや適性は働きはじめてから磨いていけば大丈夫です」
ハード面よりもソフト面を重視する東条湖おもちゃ王国だからこそ、子どもたちと心を通わせることができる人が求められているのだ。
加東市といえば東条湖。東条湖といえばおもちゃ王国
加東市の観光交流人口は年間300万人といわれるなか、東条湖おもちゃ王国の年間来場者数は50万人、ホテルグリーンプラザ東条湖は10万人、東条湖カントリー倶楽部は3万人と、東条湖リゾートが加東市への集客に果たしている役割は大きい。
「今後も地元のPRに貢献できるよう、今年から〝加東市の東条湖おもちゃ王国〟と名称の枕に市名をつけるようにしました。東条湖おもちゃ王国の存在が加東市の認知向上に少しでも役立てばと思っています」
橋本総支配人が東条湖リゾート全体を統括するようになって2年。今後は「遊園地やホテル、ゴルフ場などの各ロケーションの魅力をさらに高めるとともに、相乗効果によってより良いサービスを提供できるようにしたい」と抱負を話す。
「東条湖おもちゃ王国では子どもの想像力や発想力、コミュニケーション力などを楽しみながら伸ばすことを大切にしています。その意味では親子の触れ合いの場にも最適なんです。東条湖おもちゃ王国がご家族のきずなを強める遊園地であり続けられるよう、今後も運営の努力を続けていきます」
経営者紹介
東条湖リゾート 総支配人 橋本匡史さん
リニューアルに立ち会ったからこそ、東条湖おもちゃ王国への愛着は人一倍
私はもともと公友不動産の母体である安達事業グループの本社採用で入社し、大阪の事務所で広報や販促の仕事をしていたんです。その延長で東条湖ランドのリニューアルプロジェクトに関わりはじめ、現場の打ち合わせに参加するなかで立ち上げの責任者になりました。
その後、2000年の東条湖おもちゃ王国のリニューアルオープンを機に東条湖リゾートに正式に赴任し、現在に至る流れです。
いま振り返っても、東条湖おもちゃ王国へのリニューアルはとんでもないスピード感でしたね。
1999年4月に軽井沢おもちゃ王国がリニューアルオープン後、その年の11月に東条湖ランドのリニューアルプロジェクトが立ち上がりました。そして翌年5月28日に東条湖ランドを閉園後、その僅か2ヶ月後の7月20日にリニューアルオープンですから。
ともあれ遊園地の立ち上げに関われる機会はそうそうありませんから、東条湖おもちゃ王国への愛着が人一倍強いですね。
前身の東条湖ランドの時代も含めると、2019年に開園からちょうど50年が経過したことになります。これまで夏のプール開きの際には加東市の子どもたちを招待させてもらってきましたが、地元に根を張って半世紀、今後も地域の皆さんに恩返しをしていけたらと思っています。
そして今後も加東市と連携を取りながら魅力的な遊園地経営に努め、加東市に来ていただくきっかけになるだけでなく、東条湖リゾートが市内を回って楽しんでもらえる拠点になれば嬉しいですね。
従業員紹介
新谷花菜さん
「私もこんな人になりたい」小学生時代の思い出が志望理由
加東市が地元の私は社高校を卒業後、2015年から東条湖おもちゃ王国で働きはじめました。
入社のきっかけは、小学生時代の思い出です。
私の通っていた小学校の春の遠足は毎年、東条湖おもちゃ王国だったのですが、ある年に私は園内で迷子になってしましました。そのとき、男性のスタッフの方が声をかけてくれて、ずっと付き添ってくださってとても安心できたんです。そして「私もこんな人になりたいな」と思いました。
学校の進路指導室で東条湖おもちゃ王国の求人票を見たとき、当時、漠然と抱いたそんな思いがよみがえってきて、入社試験を受けてご縁をいただくことができました。
入社後の3年間は遊具係りを務め、今年から売店を担当しています。働きはじめてから一貫しているのは、しんどいよりも楽しいということ。私は子どもが大好きなので、お友だち(子どもたちのこと)と毎日触れ合えるのがとても嬉しいんです。
さらに遊具を動かすのはほかでは経験できない貴重な仕事ですし、お友だちに「行ってらっしゃい」「お帰り」と声をかけて喜んでくれると私もとっても嬉しくて。売店に移動になり、最初は「乗り物のほうが……」とも思ったのですが、実際に売店で働いてみるとお友だちと触れ合える仕事には変わりはないので、いまではどちらでもよかったなと思っています。
東条湖おもちゃ王国のスタッフたちは、みんな笑顔で本当に楽しく働いています。子どもが好きな人にとっては楽しく働ける職場だと自信を持って言えますね。スタッフ同士の仲もよく、働きやすい環境だと思いますよ。
私自身の今後の目標は、一人でも多くのお友だちに名前を憶えてもらい、また東条湖おもちゃ王国に遊びに行きたいなと思ってもらうこと。あとはやっぱり、小学生時代の思い出の人のようなスタッフに成長することですね。
文・写真/高橋武男
令和2年度 加東市商工会企業紹介PR事業