お洒落なだけの美容室はいらない
現在、国内には26万4,223軒の美容室が存在する(*)。コンビニエンスストアが約5万6,000軒であることを考えても、その店舗数の多さは一目瞭然だ。兵庫県内だけでも1万軒以上がひしめき合い、ポジショニングや差別化が求められる中、独自の世界観を確立しているサロンがある。「KOMINKA RESORT SALON KURATANI(古民家リゾートサロン クラタニ、以下KURATANI)」だ。
顧客を受け入れる“器”としてのお洒落な店舗は様々あっても、オーナーの世界観そのものが空間として存在するサロンは、そう多くはないだろう。古民家と複合美容サロンという異色のコラボレーションは、どのように生まれ、どう受け入れられているのだろう。
*厚生労働省「2021年度衛生行政報告例」2023年1月付
非日常の空間に癒される、「心がキレイになれるサロン」
昔ながらの民家が、静かに点在する山間(やまあい)の集落。のどかな風景に溶け込んだ鈍色(にびいろ)の看板が、一般的なサロンとは一線を画した存在としての期待を膨らませてくれる。
「本当は看板も出したくないんですよ」と笑う、オーナーの出井宏樹氏。68世帯、住民169人(*)という、商業施設もない小さな集落で、美容室をはじめエステティックサロンや脱毛サロンなども併設した、トータルビューティサロンを2021年9月にオープンした。
「髪が美しくなったり、肌が整ったりすることで、仕事や家庭で抱えたストレスもクリアになるはず。非日常の和の空間に癒され、『心がキレイになれるサロン』を目指したい」と話す出井氏。そんなサロンであるために、場所、空間、技、人、想いを、独自の「世界観」として表現させてくれた器が古民家だった。
*2022年4月加東市人口統計より
歴史が磨いたしつらえと、クリエイティブな機能性の共存
障子の引き戸の玄関をゆっくり開けると、裏庭へ続くガラス戸からの自然光が、土間にしつらえた待合のカフェカウンターを照らす。FIX窓からの眺めは、壁を飾る絵画のようだ。待合の向かいには、階段箪笥(だんす)とヘッドスパチェアに、半個室のシャンプースペース。
和室を改装した美容室には、精巧な欄間(らんま)や趣のある組子建具と共に、一枚板のウォールナットカウンターがサロンの象徴として取り入れられている。古民家ならではの時を重ねたしつらえと、機能性を大切にしたモダンでシンプルな造作がうまくマッチした、個性的で心地よい空間だ。
フリースペースとして開放された2階へは、階段箪笥を上る。屋根裏部屋を探検するような感覚も楽しい。
一方、庭園を挟んだ離れの和室には、存在感のある欅のカウンターを備え、重厚さと癒しが満ちるエステティックサロンが。別室の脱毛サロンでは、最新機器による最先端の施術やサービスを受けられる。
その庭園には、出井氏が「美容室にふさわしいクリエイティブさ」と言う松と、色の移り変わりを愛でたい紅葉を植栽。屋久島地杉を使用したウッドデッキでは、枯山水が施された庭の景色を楽しむことができる。
「こんな時代だからこそ、落ち着きと癒しを届けたい」との想いで造り上げた、日本庭園のある美容室だが、実は最初から思い描いていた構想ではない。「古民家という、建物ありきで始まったサロンづくりだった」と話す出井氏。きっかけは、50年もの間、住まう人を無くしたままだった家への愛着だった。
100年息づく伝統を残し守りたい! 古民家ありきのサロンづくり
KURATANIがある加東市大畑は、出井氏の出身地。旧東条町大畑地区蔵ノ谷という集落の名が、サロン名KURATANIの由来だ。その地元で、築100年以上もの時を刻み続けた叔父の実家が、KURATANIに生まれ変わった古民家だった。
「出井家の本家ですが、使っていたのは年に一度、親族が盆の墓参りに集まる時ぐらいでした。叔父も亡くなり、叔母といとこは関東在住。取り壊しの話が出た時、もったいないと思ったんです」
先人の技を駆使して建てられた日本の伝統建築を、次の世代に伝えたい――。リノベーションに取り組むことを決めた出井氏は、決心した背景について「文化も、田舎も、守りたかった」と話す。
「流行している古民家のリノベーションに、ただ便乗したのではありません。この地元が、好きなんです。店も人口も少ない田舎ですが、都市部で美容師として働こうと考えたことは、一度もありませんでした。この田舎を、田舎の良さを、守りたいと思ったんです」
出井氏は、加東市商工会のサポートのもと、新分野への事業展開への挑戦を支援する補助金を申請。資金計画を立てる一方で、古民家再生の実績を誇る神戸市の設計事務所にリノベーションを依頼。「KURATANIを訪れる人たちが美しく変化し、身心の癒しと浄化を体感できる空間づくりを目指そう」という共通の想いのもと、再生プロジェクトをスタートさせた。
入念な打ち合わせによる設計プランの作成に始まり、基礎の補強、配管工事や修理に至るまで、およそ2年の月日をかけたリノベーションの結果、KURATANI再生プロジェクトは「JAPAN WOOD DESIGN AWARD 2022(*1)」において、ライフスタイル部門ウッドデザイン賞を受賞。また「インテリアプランニングアワード2022(*2)」では、入選を果たす快挙を成し遂げ、出井氏の想いと挑戦を強く後押しする結果となった。
「本当は、田舎でのオープンは勇気が必要だった」と打ち明ける出井氏。しかし、そんな不安を払しょくするだけの魅力を、古民家サロンは秘めていたのだ。
*1 「JAPAN WOOD DESIGN AWARD」:木の良さや価値をデザインの力で再構築することを目的に、優れた建築・空間や製品、活動や仕組み、研究等を募集・評価し表彰する顕彰制度。一般社団法人日本ウッドデザイン協会主催
*2 「インテリアプランニングアワード」:インテリアプランナーが携わった、快適で優れた価値ある空間を評価・顕彰するもの。一般社団法人日本インテリアプランナー協会(JIPA)主催
古民家がもたらした発想、付加価値、世界観
美容師である出井氏が、エステティックや脱毛を取り入れようとした発想も、「古民家」という空間がもたらしたものだ。一般的な美容室に、いまだかつてない世界観を盛り込もうという計画は、補助金申請の際の事業プランづくりや、「この部屋は、エステティックサロンとして使いたい」という設計士からの提案がきっかけになった。古民家という器が、新たな発想を広げてくれたおかげだったのだ。
「立派な梁や床の間など、古民家ならではの趣のある空間や家具を活かす一方で、新しい機能素材を取り入れる。そんな斬新な組み合わせで、訪れる人を魅了する空間を造り上げようと、設計士さんと想いを共有しながら形にすることができました。特に、インテリアプランニングアワードは、ホテルや美術館といった大規模な建築物が受賞してきた賞。個人の古民家サロンの入選は、快挙だそうです。古民家がつないでくれた設計士さんとのご縁にも、感謝しています」と出井氏が語る。
個性的な発想が随所に生きる古民家の魅力は、建物としての価値だけにとどまらない。サロンのコンセプトである「リゾート的な心地よさと美しさの提供」という付加価値も生み出した。
「今後もますます美容室は増えていくはずです。今は、無機質な色使いや木の明るさを取り入れた、シンプルでモダンなデザインが主流。KURATANIのように、重厚で落ち着いた日本家屋の美容室なんて、まず真似ができないと思っています。年齢を重ねて“おじいちゃん”になっても、和の空間なら仕事を続けられそうですしね」と笑う出井氏。古民家から生まれた付加価値が、唯一無二のステージへサロンを導くと同時に、KURATANI独自の世界観となり、共感し共鳴する顧客やスタッフを連れて来てくれるのだ。
「足を運んでくださったお客様は、落ち着いた雰囲気を気に入ってくださいます。また、私の想いに賛同して集まってくれたスタッフたちも、価値観を共有できる、信頼のおけるメンバーばかりです。」
事業展開の発想が広がって付加価値となり、育まれた世界観が人を呼ぶ。古民家サロンの持つ可能性は、計り知れない。
一方、美容室としてのKURATANIの魅力は、当然のことながら、そのサロンワークにある。
縁と情熱とコミュニケーションで、お客様を癒したい
今後は、新規顧客の開拓にも一層力を入れたいと話す出井氏。アピールしたいのは、ヘアドクターのような視点から生まれるサロンワークだ。
「美容師は、コミュニケーションが必要な仕事です。スタイリスト主導のスタイリングではなく、お客様にどれだけ合わせられるか。そのために、目の前のお客様の希望を、とことんヒアリングすることから始まります。希望のスタイルや仕上がりをかなえるための、道を整えることが本当のカウンセリング。『今日はここまで希望に近づいたので、次回はその先に進みましょう、するとその次はもっと理想に近づきます』というように説明ができること。それが、再来店にもつながるんです。一人ひとりのお客様の空気を読み、息を合わせて考えること。それが、顧客満足度の向上につながると思っています。」
特にこれからの美容師は、一つのことに特化した技術者であることが大切だと語る出井氏。
「例えば、メンズカットは人に負けないとか、ボブスタイルならとことん美しくカットできるとか、人より秀でたものを磨いてほしい」と言う。
そんなKURATANIが今求めているのは、ヘッドスパに特化した「スパニスト」。癒しを求めに訪れる人が増えているため、ニーズ以上の癒しを届けることを目指している。
「『美容の仕事が大好き』という、熱いものを持った人と出会えたらいいなと思っています。情熱があれば、どんなこともクリアできますから。」
「出会いも縁」と言う出井氏。熱い縁でつながったスタッフたちと共に目指すのは、どんな未来なのだろう。
7. 地元に愛される店づくりこそ、地域への貢献になる
「古民家の面白さは、使い方のアイデアが無限に出てくること。発想を軸に、いろいろな人との輪を広げたい」と話す出井氏は、2階に用意したフリースペースだけでなく、ゆくゆくは、母屋に隣接する納屋や蔵もコミュニティスペースに改装し、活用することを考えている。
その一方で、田舎という立地にあって、どう事業を宣伝し集客に結び付けるかといった、古民家特有の課題もある。
「まずは、KURATANIの存在を知らしめることに尽力し、スタッフが指名をいただけるお客様に出会えるよう、サポートをしていきます。そのためには、来てくださった目の前のお一人おひとりに満足していただけるよう、精いっぱい頑張るしかありません。心から喜んでいただくために、コツコツと努力を重ねるしかないと思っています」
目標は、地元に愛されるKURATANIだ。
「この地にKURATANIが根付いてこそ、地域貢献になります。先日は、中学の野球部で一緒だった後輩のお母さんが、『出井君の店なら行ってみようと思って』と、予約のお電話をくださいました。やっぱり田舎はいいですね。東条、最高です!」
経営者紹介
オーナー 出井宏樹さん
田舎でも、美容師のトップに立てる!
「ヘアスタイルって、思い通りになるんだ!」
高校生になって、初めて美容室で切ってもらった髪に衝撃を受けました。中学生の頃から長めのヘアスタイルが好きだったのに、通っていた理髪店では、いつも短髪にしか仕上げてもらえなかったんです。
「思い通りのヘアスタイルに仕上げてくれる美容師ってすごい」と思ったことが、高校卒業後、美容師の道へ進んだきっかけでした。
私の髪を切ってくれていた美容師の方は、当時、人口2万人前後だった加東郡社町(現、加東市)の店舗勤務だったにもかかわらず、全国に展開している何十店舗の中でも、常に指名数が上位を占めていた人。「田舎か、都会かなんて関係ない。街に出なくても、自分の頑張り次第でトップクラスになれるよ」という言葉に、「地元でもやれるんだ」と勇気をもらったことで、今の私があります。
高校卒業後、三木市内の美容室に12年間勤務した後、2014年に西脇市のプライベートヘアサロンへ移りました。西脇市内でも、かなり山の上にある美容室で、最初は「こんな立地で、お客様は来てくれるんだろうか」と不安だったんです。でも、静けさや見晴らしの良さが魅力になる立地だからこそ、逆にお客様に喜ばれ来店いただいていました。
3年間、店長として働いた後、オーナーに「独立させてほしい」と依頼。より自由な働き方を求め、私がオーナーとして店舗を引き継がせていただきました。それが、第1号店のプライベートヘアサロン「le-non hair(レノンヘア―)」です。幼い頃から「いつかは自分で事業を立ち上げろ」と父親に言われていた言葉が、ずっと残っていたのかもしれません。
お客様と家族になれる、それが美容師という仕事
美容師って、いい仕事だと思っています。生涯を通じて、お客様と家族のようになれるんです。何年もカットを担当させていただいていると、学生だったお客様が、運転免許を取って車を運転するようになり、社会に出て結婚され、生まれたお子さんのカットもお願いされることもあります。
時には、悲しいお別れの時を迎えることもあり、仏様に手を合わせに伺うことも……。人との出会いは「一期一会」。何度もお出会いするお客様でも、その時その時の施術や会話に心を込め、一緒に過ごす時間を大切にしています。
一方、専門職としての楽しさも感じます。お客様の髪を美しく仕上げるには、私自身のアップデートが欠かせません。常に課題があり、習得しなくてはいけない技術や、覚えなくてはならない知識もあります。お一人おひとりに合った商材を提供するために、試用を何度も繰り返すこともあります。だからこそ、美容師の仕事は面白く、飽きることもありません。お客様の「ありがとう」が聞きたい、喜んでいただきたい。それが私の原動力です。
それに美容師って、長く続けられる仕事でもあるんですよ。加東市内に、88歳の理容師の方が今も現役で働かれている店があるのですが、市外の障がい者施設で、散髪のボランティアにも携わられているそうです。そんな先輩がいらっしゃることが驚きと共に喜びでもあり、同じ業界に働く者としての誇りでもあります。美容師は、子どもにも跡を継いでほしいと思う職業です。
古民家再生で守りたかったのは、伝統と自由な働き方
日本の伝統建築を守りたくて、古民家のリノベーションを決心しましたが、実はもう一つ理由があります。自由な働き方を、スタッフみんなで共有するためです。
現在、KURATANIに4人、le-non hairに2人のスタッフが働いています。どちらの店舗も独立採算性のような経営方式で、一人ひとりがそれぞれの顧客を管理し、売上げに応じて給与に反映されるスタイルです。
タイムカードも用意せず、勤務時間の長さは給与に影響しません。休暇の取り方も自由ですし、個人事業ですが社会保険も完備しています。いわば、独立したフリーランスでいながら、会社に勤めているような感覚です。
私自身が求めた働き方を、一人でも多くのスタッフとできる限り共有し、働きやすさとやりがいを守ってあげたいと思ったんです。みんながやりがいを感じながら楽しく働ければ、店にとっても伸びしろしかありません。オープン以来、がむしゃらに働いてくれているスタッフたちに感謝をしながら、全員で心と力を合わせ、頑張っていきたいと思っています。
人と人がつながるKURATANIを目指して
親族の大切な財産だったこの家を、多くの人が集い、喜んでくださる空間にできたのは、本当に良かったと思っています。全国的な課題になっている空き家ですが、こうした再利用の方法もあること、世の中の人々に受け入れていただけるニーズがあることを含め、残して活かす一つの事例になれたらいいと思っています。そしてこれからも、ますますいろいろな人に「面白いな」と思っていただき、KURATANIの存在が広まってほしいですし、広めていかなくてはいけないとも思っています。
そのためには、私自身がもっとKURATANIという空間を楽しみながら、突き抜けること。その一つが、母屋に隣接する納屋のリノベーションです。キッチンを設け、たくさんの人が集えるコミュニティスペースとして活用したいという想いを温めています。実は昔からの私の夢は、ラーメン屋になること。美容室とラーメン屋のコラボレーションがかなったら、KURATANIが加東市の「伝説」になれるかもしれませんよね(笑)。
まずは、始まったばかりのリゾートサロンから、じっくり丁寧に育てていきます。
従業員紹介
KOMINKA RESORT SALON KURATANI 店長 長谷川健太さん / le-non hair店長 深田悠香さん
KURATANIとle-non hair、それぞれの店舗に入られたきっかけを教えてください
長谷川:出井さんと同じ店舗で働いていたことをきっかけに、互いの職場が変わった後も仲良くさせていただいていました。出井さんの独立後「2店舗目を出したら、一緒に仕事をしよう」と声を掛けていただき、KURATANIの始動と共に働かせていただくことになりました。
深田:出井さんとは、以前の職場が同じでした。「いつか、一緒に仕事をしよう」と話をしていたんです。出井さんがle-non hairの後を継がれてしばらく後、2019年からお世話になっています。
長谷川:出井さんのことが好きだったんです。出井さんは、誰とでも仲良くなれる、いい意味で「人たらし」な人。もちろん、技術もコンテストで優勝するほど素晴らしいのですが、自分のことを好きにさせてしまうところが、何よりすごいんです。
深田:自然と人が寄って来る方ですから。私には持てない視点から話をしてくださることや発想力にも、心をつかまれています。
長谷川:ついて行こうと思ったのは、私が一番苦しかった修業時代に、助けてくださったのが出井さんだったからです。美容師は、接客力と技術力の二刀流が求められ、その両方で満足していただくサービス業。身に着けてスタイリストになるまで、人より長く6年かかってしまったんです。その接客は、深田さんが上手ですよね。
深田:長谷川さんは普段から、周りの人のいいところを見つけて、話をしてくれるんですよね。
長谷川:相手に必要だと感じた時、伝えてあげたいと思うので。深田さんは、お客様に話していただきながら、自分も話すのが上手なんです。お客様との場を、盛り上げるのが上手いなと思っています。私は、自分からはあまり話さず、お客様の話を聴くことを優先していますが、しゃべることと聞くことのバランスを図るのは難しいですね。
美容師という仕事、お勧めしたい魅力は?
深田: KURATANIのオープン後しばらくして、店にスタイリストが私一人になり、その後、店長を任せていただきました。出井さんが7年かけて作りあげたle-non hair。私だけで大丈夫なのか、お客様の来店がなかったらどうしようと不安でしたが、出井さんがお客様をつないでくださったり、新しいお客様もご来店くださったりするので大役を果たせています。うれしいのは、成人式などの節目に来店くださることや、大学進学で遠方住まいになった方が、忘れずに足を運んでくださること。以前の職場で担当させていただいていたお客様が、私を探して来てくださることも、本当にうれしいです。
長谷川:私も「結婚式でのヘアセットはお願いします」と言ってくださるお客様もいらっしゃいます。節目のスタイリングを任せていただけるって、うれしいですよね。前の店から現在の店へ、私についてきてくださったお客様もいらっしゃって、お客様に必要とされていることを感じられた時が、美容師としてうれしい瞬間です。
深田:大型店舗での勤務時代は、一度に複数人のお客様の施術をしなくてはいけなかったのですが、今はプライべートサロンとして一人ずつ接客をするため、お客様との距離が近くなりました。シャンプーからカット、カラーの塗布、パーマの施術、ブローまで、すべての行程に一人で携わることができるので、一人ひとりのお客様と丁寧に向き合えてうれしいです。
長谷川:KURATANIでも、最初から最後までマンツーマンでの施術が基本です。お客様から直接「ありがとう」という言葉が聞ける仕事。それが、美容師の一番の魅力だと思っています。
KURATANIとle-non hair、それぞれの店舗の好きなところはどこですか?
長谷川:かつての勤務店では、施術の行程に費やす時間の配分が厳しくて、一定の時間内に決められた作業を終わらせなくてはなりませんでした。お客様の回転率を上げなくては、その時間に収まらなかったんです。接客を大切にしているつもりでも、どうしても流れ作業になることもありました。忙しない雰囲気や、焦っている気配が伝わってしまうことが、苦しくてつらかったですね。KURATANIでは、施術にゆったり時間をとれるので、希望をしっかり伺え、お客様と向き合った接客ができます。そんな今があるのは、忙しい店舗での経験のおかげ。何事も無駄な経験はないことを実感しています。
深田:私も、今のような働き方をずっと求めていたんです。以前の職場では、慌ただしい働き方をせざるを得ませんでした。店の空気感や、一緒に働いているスタッフも含めた環境の良さも、le-non hairに移ってよかったと思うことです。
長谷川:古民家のリノベーションはいいですよね。オシャレな美容室は、これからもどんどん増えると思いますが、「古さ」を「お洒落」として取り入れた美容室って、KUJRATANIが唯一無二だと思うんです。ただ古民家なので、冬場の隙間風がちょっと辛いですが、気持ちでカバーしています(笑)!
深田:店舗の環境で言えば、le-non hairの高台も喜んでいただける立地です。子どもの笑い声が響き、鳥のさえずりや鹿の鳴き声まで聞こえることも。車の騒音もなく、人の目も気になりませんから、のどかで落ち着くと言っていただきます。
美容師の先輩として、アドバイスをください
長谷川:美容師は、お客様に求めていただかなければ楽しくない職業。お客様がついてくださるために、どんなことでも構わないので、必要とされる人になるために頑張ることが大切です。
私は修業時代、1年のうち300日は「辞めたい」と思っていました。「自分に美容師は無理だ」とも思っていたんです。それでも諦めなかったのは、この仕事が好きだったからだと思っています。お洒落をすること、人が好きなこと、人のことをもっと知りたいと思うこと、そんな気持ちの掛け合わせで美容師を続けられているのだと思っています。
出井:長谷川君の今があるのは、辛かった時に諦めなかったからだと私も思っています。自分を必要としてくれるお客様がついてくださるまでは大変だと思いますが、出会えた後は必ず楽しくなる仕事です。それまで絶対に諦めず、苦しい時期も乗り越えて、壁を破ってほしい。今は、店ではなく人にお客様がつく時代です。多少遠くの店でも、カットして欲しいと思うスタイリストのもとへ、お客様は出かけますから。
深田:私が美容師になったのは、高校卒業後の進路を考えた時、「そういえば昔、美容師になりたかったな」と思い出したことがきっかけだったんです。この世界に入ってみると、自分にできることが次々増えていく楽しさや、やりがいがあることに気付きました。例えば、新しいカラー剤の配合を考えることもそうです。毎日同じ作業の繰り返しでも、その都度、行動の中身が違うので、仕事であっても楽しめてしまうんです。自分が楽しみながら、お客様に「ありがとう」って言っていただけるのは、いい仕事だと思っています。
加東市で働くって、楽しいですか?
深田:今、le-non hairのスタッフが着付けを練習中です。お客様からの問合せも増えていますから、着付けからメイク、ヘアセットまで、二人ですべてを仕上げられるようになりたいと思っています。
長谷川:私は、KURATANIというサロンの存在を、そしてスタイリストとしての私のことも、もっともっと多くの方に知っていただくことが一番の目標です。
出井:様々な壁を諦めずに乗り越え、独立してもおかしくないくらい成長しているにもかかわらず、私のもとへ来てくれた二人には、本当に感謝しています。信頼のできる心強いパートナーです。特に、深田さんは一番最初に来てくれたんですよね。
深田:出井さんの人間性に惹かれていましたから。今こうして、地元で働き始めて気づいたのは、人の空気感が似ていることです。ここは、お客様みんながやさしいんです。歯医者さんに心配されるくらい、たくさん差し入れをいただいたり、野菜を持ってきてくださったり……。お客様のやさしさに、助けていただいています。
長谷川:人のやさしさには、私も驚きました。加東市に転居してきましたが、横断歩道の手前で一旦停止をすると、歩行者がわざわざ会釈をしてくださるんです。皆さん、温かいですね。自然も豊かで、空も景観も美しい。ご縁のあった加東市を、少しでもKURATANIで盛り上げられればうれしいです。
文:内橋麻衣子/写真:高橋武男
※令和4年度 加東市商工会企業紹介PR事業