社菓庵末永は、兵庫県加東市で1988年2月にオープンした和菓子店です。開店当初から看板に「名物どら焼」を掲げ、地元だけでなく遠方からもお客様が訪れます。
9年前に修行を終えた息子さん夫婦が加わり、5年前には娘さんが洋菓子ブランド「Hitotoki 人と季」を立ち上げました。和菓子と洋菓子が同じ店に並び、季節の上生菓子や掛け紙の書き分けなど、日本の歳時に関わる知識が仕事の中で身につくのがこの店の特徴です。
今回は代表の末永和明さん、奥様の末永さゆりさん、職人の末永宗一郎さん、販売担当の植山さんにお話を伺いました。
兼業農家の朝生菓子から、どら焼の店へ

━━会社の歴史と背景を教えてください
(末永さん)
1988年の2月に小売店としてオープンしました。それまでは父が兼業農家をしながら、餅や赤飯といった朝生菓子を作りスーパーなどに卸してました。
私は次男で、兄がいますが会社勤めの道へ進み、大学卒業後私が菓子業を継ぐことになり、職人として本格的に菓子作りを覚える為の修行に出ることになりました。
━━修業はどちらでされたのですか
(末永さん)
大阪の住吉です。住吉大社のすぐ近くにあるお店で、どら焼が有名な店でした。私が入る半年ほど前に店をリニューアルされたばかりで、本当に忙しかったですね。
今では珍しいと思いますが、住み込みでしたよ。昼から行って社長と話をして、その日の夕方4時半頃にはもう「仕事するか」と。まだみんな忙しく働いていましたから。今思えば、師匠に試されていたのかもしれません。
━━初日からいきなりですか(笑)
(末永さん)
そうなんです。時代的なものもあるでしょうね。
開店当初から掲げた「名物どら焼」

━━どら焼を看板商品にした理由を教えてください
(末永さん)
開店当初から看板に「名物どら焼」と書いていました。ただ正直に言うと、どの商品がお客様に受けるかは分かっていなかったんです。
ただオープンするにあたり、どういうお菓子をメインにするかと父とも相談し、できれば故郷のお土産として自慢できる逸品を作りたい。召し上がりやすく運びやすく、そして心温まる美味しさが必要だと考え、修業先がどら焼で有名なところだったので、売れたらいいなという気持ちで、どら焼を前面に押し出しました。あとは、大量生産がしやすい商品でもあります。
━━今は機械で焼いているのですか
(末永さん)
焼くのは自動の機械です。じつは修業の2年目くらいに、その機械のプロトタイプが入って、私が担当になりました。それまで親方のところは手焼きだったんです。
こちらも開店から3年くらいは手焼きでした。ただ、嬉しいことにお客様が増え生産が間に合わなくなり、どら焼の製造に時間を使ってしまうと他の商品が全くできなくなる。それでかなり高い機械でしたが、導入を決断しました。生産性は全然違いますね。
━━手焼きの頃は大変だったのですね
(末永さん)
夏場はとくに大変です。鉄板の熱を体に浴びるので、必ず1回は体調を崩していました。
━━どら焼のこだわりを教えてください
(末永さん)
やはり生地ですね。お客様が一番言われるのも生地なんです。焼くのは機械ですが、生地は手で練っています。
大手菓子メーカーは練る作業も機械化されているようですが、手で練るのとこんなに違うとは思いませんでした。
━━同じ材料でも変わるものなんですね
(末永さん)
同じ配合、同じ分量でやっても、人の練り具合により微妙に違いが出ます。この職人の練り加減は機械では再現できないところです。
恩師からの言葉、「末永流の和菓子をつくる」という目標

━━この場所を選んだ理由はありますか
(末永さん)
国道175号線バイパスが通っていたのと、先祖の土地がここにあったからです。
修業から戻りオープンするにあたり、結構な金額の借入がありました。商売の先輩である父も小売りは初めてでしたので毎日この売り上げでやっていけるのか、と、かなりのプレッシャーでしたね。
━━他にも数字を意識された理由はあるのですか
(末永さん)
オープンの1週間前に、修業先の師匠と社長が店を見に来てくれたんです。弟子がどんな店を出しているか、見たかったんだと思います。
そのときに社長が店舗や工場を見られ「この場所この設備だったらかなりの売り上げが見込めるな」と言われ、その言葉通りになりたいと思いました。ようやく3年目くらいから、少しずつリピーターのお客様も増え手応えを感じるようになりました。
━━目標が変わったきっかけはありますか
(末永さん)
オープンの翌年くらいに結婚したのですが、その結婚式で高校時代の恩師に言われた言葉です。あまり年齢が離れていない、若い先生でした。
最後に「末永流の和菓子をつくってください」と言われたんです。
その言葉を聞いたとき、自分のどこかに「親方のところを真似ておけば何とかなる」という意識があったんだと気づきました。真似だけではいずれ頭打ちになる。先生はそれを心配してくれたのかなと、勝手に思っています。
「どら焼が食べたい」と言ってもらえる商品に

━━印象に残っているエピソードはありますか
(末永さん)
店を出して2年目くらいのときに、お客様から聞いた話です。
当時はまだ家でおじいさんやおばあさんを看取ることが多い時代でした。あるお宅で「最後に何か食べたいものはあるか」と聞かれて、「どら焼が食べたい」と言われたそうです。
それで食べていただいたら、どら焼は栄養価が高いので、それまで点滴だけだった方がしばらく元気に過ごされたそうです。
━━それは想像していなかった展開ですね
(末永さん)
その時は「そんなこともあるんやな」と驚きました。でも今の年齢になると、最後にそう言ってもらえるような商品になれたらいいなと思います。
娘が手がける洋菓子ブランド「Hitotoki 人と季」

━━洋菓子ブランドを始めたきっかけを教えてください
(末永さん)
娘がやっています。5年ほど前からです。
同じ店で出すかどうかは、かなり迷いました。お客様の人数はそんなに変わらないので、同じところから取り合うことになるんじゃないかと心配だったんです。
ただ実際にやってみると、和洋菓子両方購入できるので嬉しいと、ご来店人数は増えてきました。
━━店先に冷凍の自動販売機も置いてありますね
(末永さん)
昨年から始めました。以前は毎週火曜日のみの休業でしたが働き方改革で、月に何回か休みを取らないといけません。
昔は従業員を休ませ家内の者で営業をしていましたが、年齢的にも規模的にも無理になり店を月6〜7回休業するようになり、お客様が店先まで来られ、残念そうに帰られる姿を見て、せめて人気商品どら焼をご自分用にお買い求めいただければと思い、24時間購入できる冷凍自動販売機を購入しました。最近お客様も冷凍食品にだんだん抵抗がなくなってきてますし。
━━お客様は買いやすくなりますね
(末永さん)
そうですね。置いているのは全部冷凍商品です。どら焼のほか、生どらや小豆アイスなど、もともと冷凍でないと売れない商品を販売しています。
━━繁忙期はいつですか
(末永さん)
一番忙しいのは年末年始です。次が3月のお彼岸からゴールデンウィークまで。逆に夏は閑散期で、午前中でほぼ製造が終わります。
派手さはないけれど、コツコツ続けられる仕事

━━今後どのような人材を求めていますか
(末永さん)
和菓子は、洋菓子やパンと比べると、どちらかというと地味な仕事です。派手さがあまりありません。ですから、素直な方で、地味な仕事でもコツコツ続けられる方でないと、なかなか続かないのかなと思います。
息子が東京の製菓学校に行っていたのですが、和菓子・洋菓子・パンの3コースがあって、卒業式で派手な感じの卒業生が洋菓子とパン。和菓子の卒業生はかなり控え目で。これが全国共通らしいんです。
━━洋菓子とパンは華やかですもんね
(末永さん)
洋菓子は見栄えが大事ですし、今はSNS映えもしないといけない。和菓子はお茶とで侘び寂びの世界、そこまで派手さは求められません。仕事も、一人前になるまでに時間がかかります。
━━未経験でも大丈夫ですか
(末永さん)
一昔前のように「見て覚えろ」という時代ではありません。配合もこちらからきっちり教えます。
できれば、基礎知識が必要なため、製菓学校を出ている方がいいとは思います。ただ、学校で習っている部分とは異なり、店によって配合も違いますし、その店の色があります。まずはうちの色に染まっていただいてから、自分の色を出していけばいいと思っています。
店頭に立って伝わる、お客様とのつながり

続いて、代表の奥様にお話を伺いました。末永さんが工場にいることが多いため、店頭でお客様と接しているのは奥様です。やわらかい口調で話される方ですが、お菓子と日本の歳時の話になると言葉に熱がこもりました。
━━どのような方に来てほしいですか
(さゆりさん)
素直で学ぶ意欲のある方ですね。コツコツ覚えて上達していく世界なので。
それから、まずはお菓子が好きな人。好きでないと興味も持てないと思います。あとはコミュニケーション能力が高い方、チームワークを大切にする方。これは製造も販売も両方に言えることです。
うちは和洋の両方をやっているので、どちらがいいか悩んでいる方でも、両方を経験して「自分はこっちの方が向いているな」と分かります。又、和洋ミックスした商品作りも可能です。
━━選択肢があるということですね
(さゆりさん)
そうです。そこはすごく利点だと思います。
━━職場の雰囲気を教えてください
(さゆりさん)
家族の従業員が多いのですが、社員の方もアルバイトやパートの方も分け隔てなく、みんなで仲良くコミュニケーションを取るようにしているのでアットホームな環境です。
━━この仕事で身につくことはありますか
(さゆりさん)
うちに来ていただくと、日本古来の風物詩や歳時に触れられ、覚えていただけます。上生菓子を通して四季を感じてもらえます。
あとは、贈り物に添えられる掛け紙を書く機会があるので、冠婚葬祭に使われる掛け紙の種類や用途が覚えられます。日本にしかないものなので、せっかくだから覚えていただきたいという思いがあります。
━━印象に残っているお客様とのやりとりはありますか
(さゆりさん)
主人は職人でほとんど工場にいるので、接客は私がしています。
だいぶ前の話ですが、どら焼を買いに来られた方が「この前このどら焼を持って行ったら、お詫びをするのにすごく役に立った」と言われたんです。
人と人はこうやってつながっていくんだなと思いました。「お土産には絶対どら焼」と向こうから言われた、という話も嬉しかったですね。
━━素敵なお話ですね
(さゆりさん)
美味しいものを届けたいという思いが伝わって、スムーズな関係ができる。ありがたいことだと思っています。
上生菓子を得意とする2代目

続いて、息子で職人の末永宗一郎さんにお話を伺いました。東京と大阪で修業を積み、9年前から店に入っています。落ち着いた話し方をされる方ですが、上生菓子の話になると表情が変わったのが印象に残りました。
━━入社された経緯を教えてください
(宗一郎さん)
働き始めて9年になります。高校を卒業した後、東京の製菓学校に2年間通って、東京で働きました。その後、父と同じ修業先である大阪の住吉で修業して、こちらに帰ってきました。
━━得意な仕事はありますか
(宗一郎さん)
上生菓子が好きです。コンテストにもよく出品していました。見た目が華やかなので、若い方の集客にもつながるかなと思っています。
━━お花などがモチーフになるものですね。細工には技術がいりそうです
(宗一郎さん)
最初は、教えてもらっている先輩の手元を見ても、何がどうなっているのか分かりませんでした。機械でできるものではなくて、すべて手でつくります。
━━なかなか簡単にはできなさそうですね
(宗一郎さん)
人によるとは思いますが、時間はかかります。製造では一通りの仕事はしていますが、その中でもとくに好きなものを活かしていきたいと思っています。

━━この仕事をやっていて嬉しかったことはありますか
(宗一郎さん)
お客さんが「美味しい」と言ってくださったり、「すごく綺麗」と言ってくださることですね。お客さんの直接の声が一番です。
━━作業担当はどう分けているのですか
(宗一郎さん)
人数が少ないので、みんなでローテーションを組んで回しています。どら焼の生地練りは2週間交代で担当してます。どら焼、上生菓子や和菓子、洋菓子とあって、洋菓子は妹が担当しています。
━━1日の流れを教えてください
(宗一郎さん)
朝は6時から私の作業は始まります。まず小豆の豆炊きという工程があって、豆に火をつけて沸騰させて、何回か水をかけます。それからあんこづくりに入ります。あんこは出来上がりまで4時間くらいかかります。
その後は朝生製品を作ったり、当日売りの商品を出したり、どら焼の生地を練ったりですね。
━━あんこは毎日炊くのですか
(宗一郎さん)
ほぼ毎日です。この時期は工場にはスポットクーラーしかないので、暑いですね。
━━それは大変ですね。仕事が終わるのは何時頃ですか
(宗一郎さん)
閉店が18時で、片付けなどをして18時半頃です。定休日は基本的に火曜日ですが、最近は月に何回か別で休みをいただいています。

━━加東市で働くメリットを教えてください
(宗一郎さん)
私は都会より田舎の方が好きなので、落ち着いて自分のペースで働けるのがいいと思います。東京は競争が激しくて、目の前に新しい店ができたと思ったら、半年後には潰れていたりする。そういうのを見てきたので、余計にそう感じます。そこが加東市の良いところです。
━━今後の目標を教えてください
(宗一郎さん)
地域密着を考えたいので、和菓子教室をやっていきたいです。
暑い時期は閑散期なので、その時間にお客様にいろいろな体験をしてもらって、少しでも和菓子に興味を持っていただければと思っています。
━━これから入社する方にメッセージをお願いします
(宗一郎さん)
うちは和洋をやっているので、両方の知識の習得と経験ができます。それに日本文化に触れられるので、行事ごとに何があるのかといったことも分かるようになります。そういうことに興味のある方には、いい環境だと思います。
掛け紙の世界は奥が深い

最後に、販売を担当されている植山さんにお話を伺いました。入社して丸7年。子どもの頃からこの店のどら焼を食べていたそうです。
━━入社のきっかけを教えてください
(植山さん)
もともと人と接することが好きで、接客の仕事を探していたところに求人を見かけました。
和菓子も好きですし、子どもの頃からここのどら焼を食べていたんです。美味しい和菓子をつくっていらっしゃるお店で働きたいと思ったのがきっかけです。今は丸7年で、もうすぐ8年目になります。
━━ぴったりの職場を見つけられたんですね
(植山さん)
そうですね。ありがたかったです。住まいは多可町なので、通勤も無理のない距離です。

━━勤務時間を教えてください
(植山さん)
出勤の時間によって違いますが、早くて9時出勤です。交代のシフト制で、お店の定休日以外は基本的に出勤しています。
━━やりがいを感じるのはどんなときですか
(植山さん)
「ここのどら焼が一番美味しい」とか「知り合いに教えてもらって来たよ」とか、地元の方や遠方の方から声をかけてもらうことが多いんです。そのときにやりがいを感じます。
リピートしてくださる方も多いので、その姿を見るのも嬉しいですね。
━━仕事で難しいと感じるのはどこですか
(植山さん)
掛け紙の種類と表書きがすごく多いんです。お客様によって用途が違うので、そこが難しいところです。
紅白でも蝶結びと結び切りがありますし、仏事でも行き先によって種類が変わります。お菓子も、婚礼には水物やゼリーのような流れ物、おせんべいのような割れ物は避けた方がいい。仏事には明るい色のお菓子も使わない方がいい。和菓子は奥深いなと思います。
━━それは知らないと分からないですね
(植山さん)
分からないときは教えてもらいながら仕事をしています。普段の生活では学ばないことなので、いい経験になっていますね。

━━今後の目標を教えてください
(植山さん)
お客様あってのお店だと思うので、常に笑顔を心がけること、お客様の要望に気づき、思いやりを持って接客することです。また来たいなと思ってもらえるような、明るい店づくりをしていきたいです。
製造にはまだ関わっていませんが、どんなふうにお菓子をつくっているのか興味はあります。
━━これから入社する方にメッセージをお願いします
(植山さん)
まずはお菓子に興味を持っていただきたいです。あとはお客様と接することが多いので、会話を楽しんでいただきたいと思います。
人生の節目の大切な行事にお菓子を使われることが多いので、仕事をしながら学ぶことも多いのではないかと思います。

修業先の味を手本に始まった店に、今は宗一郎さんの上生菓子と娘さんの洋菓子が加わりました。お詫びに持って行ったどら焼が話をスムーズにしたり、最後に食べたいものに選ばれたり。社菓庵末永のお菓子は、加東市の人たちの暮らしの場面に少しずつ入り込んでいます。
和菓子と洋菓子の両方があり、季節の上生菓子や掛け紙の書き分けなど、日本の歳時に関わる知識も仕事の中で身につきます。お菓子が好きで、コツコツ続けられる方には、学ぶことの多い職場だと感じました。
会社情報
| 店舗名 | 社菓庵 末永 / Hitotoki |
| 所在地 | 〒673-1431 兵庫県加東市社1050-1 |
| 事業内容 | 和菓子・洋菓子の製造販売 |
| 営業時間 | 9:00〜18:00 |
| 定休日 | 毎週火曜日(ほか月数回の休みあり) |
| HP | http://dorayaki-suenaga.com/ |
| TEL | 0795-42-1800 |
| SNS | https://www.instagram.com/dorayaki_suenaga/ |
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