西嶋パン株式会社は昭和27年(1952年)の創業から、地域に愛され続けて70年以上。現在は加東市と小野市に2店舗を構え、地産地消にこだわったパン作りをしています。
取材場所のアイガー加東店は、広いカフェスペースと駐車場を備え、平日のランチタイムには多くの家族連れやお客様で賑わいます。神戸や大阪からも車で約1時間というアクセスの良さから、ドライブで訪れる方も多く、とくに夏休みなどの大型連休には遠方からも多くのお客様が足を運びます。
今回はアイガー加東店店長の西嶋直栄さんと、従業員の中里さんに、変わらない味と地域とのつながりについてお話を伺いました。
4代にわたって受け継がれる「食」への想い

━━まず、会社の歴史について教えてください
(西嶋さん)
昭和27年に曾祖父が創業した会社で、私が4代目になります。最初は曾祖父が実家の裏であんこを作ったり、和菓子を作ったりしていました。パンも作っていましたが、戦後間もない頃はパンがまだ普及していない時代だったので、問屋のような形で営業していました。
祖父の代になって「西嶋パン」として本格的にパン作りを始めました。学校給食や移動販売、スーパーに並ぶパンなど、地元に根ざした事業を幅広く展開していきました。
父の代では、子供の減少や働き手の都市集中により、学校給食などの事業が下火になり始めました。そのタイミングで、思い切って工場をやめる決断をしました。そして現在の店舗経営に至っています。
━━西嶋さんがアイガーで働き始めたきっかけを教えてください
(西嶋さん)
神戸のパン屋で経験を積んでいましたが、25歳の時、加東市の店舗移転を機に父から声をかけられ、地元に戻りました。ちょうど新しい店舗の立ち上げ時期で、家業に加わる大きなきっかけとなりました。
店名「アイガー」に込められた想い

━━「アイガー」という店名の由来を教えてください
(西嶋さん)
スイスにアイガーという山がありますが、父と母が新婚旅行でスイスに行きました。その時、山登りが好きな父は、その山を見た時に「この名前を使いたい!」と思ったそうです。
じつは「アイガー」という名前は、いろんな面で良かったんです。たとえば、昔の電話帳では「ア」から始まるので一番上に載ります。また、各種広告でも「あいうえお順」で載ることが多いため、大体上の方に掲載されます。
━━なるほど!たしかにそれは良いですね。
お客様が見る時も、最初か最後を見ることが多いので、そういう意味でも効果があったのかなと思います。
日々の業務と製造へのこだわり
━━現在の業務内容を教えてください
(西嶋さん)
主な業務は製造で、朝からパン作りをしています。それと同時に、お客様との接客や外回りの仕事もしています。製造の面で一番気をつけているのは衛生面です。また店舗運営では、お客様が困っていることがないかを常に気にかけています。
年配の方で足が不自由な方がいらっしゃったり、若い方でもトレーにたくさんパンが乗っていて持ちきれない状況の方がいたりするので、そういう時にさりげなく声をかけるようにしています。
あまり押し付けがましくならないよう、本当に困っていそうなお客様がいれば、自然に声をかけるように心がけています。
加東市産もち麦を活かした地産地消のパン作り

━━地産地消の取り組みについて詳しく教えてください
(西嶋さん)
地産地消をできるだけ実現したいと考えています。小麦はどうしても外国からの輸入や、国内でも九州や北海道の小麦になってしまいます。「何か地元の食材を使えないか?」と探していた時に、もち麦を取り入れて開発に取り組みました。
これが現在、地元の食材を安心して食べられるということで、とても喜んでいただいています。
━━もち麦パンの開発で苦労された点は?
(西嶋さん)
もち麦を小麦粉に混ぜただけでは、あのもっちりした食感は出ません。また、パンのふっくらとした食感も出にくく、開発には本当に苦労しました。
特殊な製法を使って、もち麦の特性を活かしながら、パンとしての美味しさも実現する。この両立が一番難しかったですね。
毎日食べられる「生活に寄り添う」パン作り

━━他にも力を入れている商品はありますか?
(西嶋さん)
最近、とくに力を入れているのはピザです。加東市では野菜が豊富に採れるため、地元食材を使ったピザ作りに取り組んでいます。
そして、定番商品で一番人気なのは、10年以上続くロングセラーの食パンです。国産小麦100%を使用していて、もっちりとした食感が特徴です。毎日食べられるような、飽きのこない味にしています。
━━「毎日食べられる」というこだわりがあるのですね
(西嶋さん)
高級食パンは贅沢品として美味しいですが、毎日食べられる価格と味を大切にしています。常連さんの中には、2日に1回同じパンを買いに来てくださる方もいます。
━━価格設定でも工夫されているのですね
(西嶋さん)
物価が上がっている中で、できるだけ値上げをせずに続けたいと思っています。もちろん私たちもビジネスですし、従業員の生活もかかっているので、どこまで価格を抑えながら生活を支えられるかというバランスは常に意識しています。
値上げをできるだけしないために、商品のロスを少なくしたり、効率化を図ったりしています。そうすることで原価を抑えて、お客様に買いやすい価格で提供しています。
地域に開かれた店舗づくりとイベント展開

(西嶋さん)
地方の強みを活かして、都市部ではできないような取り組みをしています。現在、行っているのは、夏休み期間限定で子供パン教室の開催です。こういったイベントができるのは、地域密着型の私たちの一番の強みだと思います。
━━他にはどのようなイベントを実施されていますか?
(西嶋さん)
今年から始まったのが「パンつり」というイベントです。ゴールデンウィーク期間中に、小学生以下のお子さんを対象に実施しました。縁日のような感じで、パンの引換券がもらえるんです。お子さんたちにはとても好評でした。単にパンを売るだけでなく、「楽しい思い出を作ってもらえたら」という思いでやっています。
商品開発と今後のビジョン

━━新商品の開発について教えてください
(西嶋さん)
毎月決まった時期に新商品を出すということはしていません。社員から「これを出したい」という提案があった時や、季節に合わせて出したい時に開発しています。今ある商品をできるだけ伸ばすようにして、季節限定で新商品を出すようにしています。
━━既存商品を大切にする理由は?
(西嶋さん)
新商品をたくさん出すと、どうしてもロスが多くなってしまいます。ロスが少ない方が原価を抑えられて、値上げをせずに済むんです。それが結果的に地域密着につながると思っています。
お客様が買いやすい価格で、できるだけ続けていこうというのが私たちの考え方です。飽きのこない商品を長く続けていける方が良いと思っています。
スタッフとの関係性と職場環境

━━現在のスタッフ体制について教えてください
(西嶋さん)
こちらのアイガー加東店だけで、社員が12名、アルバイト・パートさんを合わせると約40名の方が働いており、皆さんのお力を借りながら運営しています。
スタッフへの接し方で心がけているのは、社員だから、アルバイトだから、パートだからと壁を作らないようにしています。大手企業よりも、アットホームな雰囲気を大切にしています。
━━スタッフは、どのような方が多いですか?
(西嶋さん)
平日のパートは、お子さんを保育園に預けてから小学校から帰ってくるまでの間に働きたいという主婦の方が多いです。土日は兵庫教育大学の学生さんや、この辺りの住宅地から神戸や大阪の学校に通っている学生さんがアルバイトをしています。
学生さんは、わざわざ大阪や神戸までバイトに出なくても地元で働けるので便利だと思います。夜は遅くても20時までには帰れるため、主婦の方にも働きやすい環境だと思います。
今後の展望~農家さんとの連携を目指して

━━今後、挑戦したいことはありますか?
(西嶋さん)
たとえば、農家さんと協力したイベントをやってみたいですね。店舗で農家さんに野菜を販売してもらって、売り上げは全部農家さんのもので、場所だけ提供するという形を想定しています。そうすることで地産地消がもっと広がりますし、農家さんのやりがいにもつながると思います。
ただ、現状は農家さんとの繫がりがないため、なかなか実現ができていません。
━━この記事を見た農家さんが応募してくれるといいですね。
ぜひ、農家さんと繋がれると嬉しいですね(笑)
長期雇用と安定への想い
━━スタッフの方との関係で大切にしていることは?
(西嶋さん)
今、働いている方ができるだけ、続けて働きやすい環境を作りたいですね。新しい人をどんどん増やすよりも、今いるスタッフを大切にしていきたいです。
その方が雇用も、スキルも安定します。そして新しく入ってきた人には、長く働いてくれている人が教える方が、商品の品質的にも安定につながります。
━━長期雇用を重視されているんですね
(西嶋さん)
この時代には合わないという考え方もあるかもしれませんが、会社としては長く働いてくれる方がありがたいです。工場時代から働いてくれている方は40年近くになりますね。この店舗になってから来た方も多いですし、移転前から働いている方もたくさんいます。
━━今後、どのような人材を求めていますか?

(西嶋さん)
パン作りの技術は、やり方が各ベーカリーで違いますし、働きながら覚えてもらえればと思います。実際、半分くらいの方は未経験からスタートしています。
それよりも重視しているのは、人と関わるのが好きな方、コミュニケーションが取れる方です。弊社は閉鎖的な職場ではないので、お客様と話すのが好きな方が向いていると思います。
━━チームワークも大切にされているんですね
(西嶋さん)
この業界も効率化が進んでいて、役割分担がはっきりしています。「この人がこの作業、この人がこの作業」という感じで分担制になっているので、円滑にコミュニケーションが取れる方が効率も上がります。
輪を乱すような人は、どこに行っても難しいと思いますが、人と話すのが好きであれば、そういう問題はまず起こりませんからね。
地元に戻って4年「お客様の笑顔が一番のやりがい」

続いて、従業員の中里さんにお話を伺いました。製造と販売の両方を担当する中里さんが感じる、地元で働く魅力について語っていただきました。
━━こちらで働き始めたきっかけを教えてください
(中里さん)
4年前に神戸のケーキ屋さんを辞めて地元に帰ってきたんです。1年ほど他の仕事をしていましたが、ハローワークでアイガーの求人を見つけて応募しました。
━━ケーキとパンでは製造の技術は同じですか?
ケーキ屋さんとパン屋さんは、作っているものは全然違いますが、技術職という点では近いものがありました。ただ、技術的な部分よりも、職人さんがいるという環境が似ているという感じですね。
━━現在のお仕事内容を詳しく教えてください

(中里さん)
販売と製造の両方をやっています。製造では主に成形作業を担当しています。成形とは、パンの形をつくる作業ですね。朝は仕上げの作業から始まります。仕上げというのは、できたパンの中にあんこを詰めたり、クリームを入れたりする作業です。
まだ、この部署になってから1年経っていないので、形を作るのが難しかったり、スピードが先輩に比べて遅かったりするので、それが今の課題です。
━━販売業務と製造業務の両方をするのは大変ではないですか?
(中里さん)
それぞれポジションはあるのですが、結局は同じものを作っているので、チームワークが大切です。製造で学んだことが販売で活かせたり、お客様の声を製造に反映させたりできるので、両方できるのは良いことだと思います。
━━レジではパンの種類や値段を覚えるのは大変ではないですか?
アイガーでは画期的なレジシステムを導入しています。商品をレジに置くだけで、どの商品かを自動で認識してくれるんですよ。

(西嶋さん)
レジシステムを導入した当時、パン業界では日本初の試みでした。従来のベーカリーでは、スタッフがパンの値段をすべて覚えて手入力する必要がありましたが、このシステムのおかげで間違いも少なくなりますし、お客様をお待たせする時間も短縮できています。
(中里さん)
このレジには、いつも助けられています(笑)
━━職場の雰囲気はいかがですか?
(中里さん)
従業員同士の年齢が近いこともあって、とても仲が良いです。みんな地元が西脇や加東の近いところなので、話をしていても「あそこ行ったことある!」「私も行ったことある!」みたいに、共通の話題があります。
地元の話ができるのは本当に良いですね。同じ場所を知っているから、会話も弾みますし、親近感が湧きます。年代も近いので、お互いに話しやすい雰囲気があります。
━━神戸で働いていた時と比べて、どのような違いを感じますか?
(中里さん)
神戸のケーキ屋さんは完全に製造と販売が分かれていて、お客様の顔を見ることがほとんどありませんでした。でも、アイガーはオープンキッチンで、お客様との距離が近く、製造現場からお客様が見えます。
また前職では、毎日同じお客様と会うということはありませんでしたが、アイガーは地域密着型のため、顔馴染みのお客様が定期的に来られます。お客様に顔を覚えてもらえるから、お話しする機会も多くなります。
━━お客様との交流で印象に残っていることは?

(中里さん)
土日になると同じお客様が来られることが多くて、だんだん顔見知りになるんです。そういう時に「アイガーのパンはすごく美味しい」「どこで買ってもここが一番!」って言っていただけると本当に嬉しいです!
作っていてよかったな、この仕事を選んでよかったなって心から思います。パンを買われる時の会話でも「ここのパンすごく美味しいよ」って他のお客様に話していただいているのを聞くと、すごくやりがいを感じますね。
━━それは、すごく嬉しい言葉ですね!
━━仕事の中で難しいと感じることはありますか?

(中里さん)
成形作業はまだ1年経っていないので、形を作るのが難しいです。同じ商品でも、微妙な形の違いで見た目が全然変わってしまいます。先輩のようにきれいに、そして早く作れるようになるのが目標ですね。
それと、お客様との接客では、どこまで話しかけて良いのかという距離感が難しいです。話しかけすぎても迷惑になりますし、でも冷たく感じられても良くない。その辺りのバランスを取るのに、まだまだ勉強が必要だと感じています。
━━店長からアドバイスで印象に残っていることはありますか?
(中里さん)
店長から言われて印象に残っているのは「完璧を求めすぎず、安定した品質を保つことが大切」という言葉です。私が技術面で悩んでいた時に、「毎日同じ品質のパンを安定して作り続けることで、お客様に信頼してもらえる」と教えてくださいました。
その時に、なるほどと思いました。確かに毎回完璧を求めすぎると疲れてしまいますし、技術的にも安定しません。でも手を抜いてはお客様に申し訳ない。一定の高い品質を毎日安定して提供し続けることの大切さを学びました。
━━今後の目標を教えてください
(中里さん)
まだ教えていただくことの方が多いので、それをもっと吸収して、後輩にも伝えられるような人材になりたいです。お店にもっと貢献できるような人になりたいと思っています。
それと、自分が考えたパンが店に並んで、お客様が「美味しい」って言ってくれたらすごく嬉しいだろうなと思います。そういう商品の提案ができるように頑張りたいですね。
━━これから働く方に向けてメッセージをお願いします

(中里さん)
アイガーでは製造と販売の両方ができるので、お客様の顔が見えます。前職のケーキ屋さんは業務内容が完全に分かれていて、壁があったのでお客様の顔が見えませんでした。ここは製造している場所からお客様が見えるのが良いところです。
自分が作ったものを買っていただいて、喜んでいただいているのが見えるのはすごくいいポイントだと思います。お客様の声も直接聞こえてくるので、「美味しい」って言ってもらえたときは嬉しいです。
それと、みんな年齢が近くて地元も同じような場所なので、職場の雰囲気も仲良く働きやすいから、アットホームな環境だと思います。

創業70年以上の歴史を持つ西嶋パン株式会社は、時代の変化に合わせながらも「地域に愛されるパン」という原点を大切にし続けています。もち麦パンに象徴される地産地消への取り組みや、お客様との距離の近さは、大手チェーンにはない魅力です。
4代目の西嶋店長が語る「毎日食べられるパン」へのこだわりと、地元に戻った中里さんが感じる働きがいからは、地域とともに歩む企業の温かさが伝わってきます。子供パン教室やパンつりなどのイベントを通じて、単なるパン販売を超えた地域コミュニティの拠点としての役割も果たしています。
今後も地域と共に成長していく西嶋パン株式会社、その歩みに注目です。
会社名 | 西嶋パン株式会社 |
代表取締役 | 西嶋 直也 |
所在地 | 〒673-1445兵庫県加東市大門340-1 |
事業内容 | パン菓子製造・販売 |
HP | https://eiger-brot.co.jp/ |
SNS | https://www.instagram.com/eiger121/ |
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