株式会社常峰瓦店は代々瓦業を継承してきた老舗企業です。1937年に創業し、時代の変化に合わせて事業を発展させてきました。現在は瓦の販売や屋根工事全般・施工を行っております。またドローンを活用した屋根の点検サービスまで、幅広い業務を展開しています。
今回は常峰瓦店の三代目 代表取締役の常峰登さん、四代目 専務取締役の常峰孝太さん、そして職人の福井亮太さんにお話を伺い、その魅力に迫りました。
━━会社の歴史と背景を教えてください
(常峰さん)
弊社の歴史は私の祖父が瓦製造業を始めた1937年にさかのぼります。その後、1973年に製造から施工に事業転換します。創業当初は黒瓦から始まりましたが、塩焼瓦(赤瓦)やネズミ色・青色・オレンジ色などの洋瓦が増えたため、カラフルな色が出てきました。それらを製造するためには多大な設備費用がかかります。
当時は田中角栄さんの「日本列島改造論」の時代で建築ブームでした。そのため、その波に乗って建築の方に移行したのです。その後、1978年に「株式会社常峰瓦店」という名前で法人化しました。
昔は家を建てたり、壁を塗ったり、屋根瓦の設置をするのは左官職人の仕事でした。弊社のように瓦専門の施工を行う会社は、近辺でもあまりありませんでした。
━━和瓦と洋瓦の違いを教えていただけますか?
(常峰さん)
和瓦は基本的にJ型と言われています。JAPAN(ジャパン)のJですね。一方、洋瓦にはF型とS型があり、F型はフランス型、S型はスペイン型です。瓦の種類によって施工方法も変わってきます。
昔の住宅は4寸5分の太い柱を使っており、重量物に耐えられる造りでした。大きな棟を載せて、J型の瓦を積んでも平気です。しかし、現在の住宅は骨組みが細いので、重量物を載せるのには適していません。そのため、屋根はできるだけ軽量にする必要があるので洋瓦が登場しました。
━━瓦にもたくさんの種類があるのを初めて知ったので勉強になります。
(常峰さん)
兵庫県では淡路瓦というのが有名です。とくに加東市は瓦に適した土地で土質が良くて、昔は瓦屋が10件近くあり、田んぼの表面をめくった土を使っていました。
━━瓦に最適な土地なのですね。
(常峰さん)
ただ残念ながら、現在は加東市内で瓦を製造している会社はありません。今は瓦の三大産地である山州・淡路・関州から瓦を購入しています。
ドローンが与える屋根工事の信頼
━━ホームページを拝見しましたが、最近ではドローンを使った屋根点検も始められたそうですね。ドローンを導入したきっかけは何ですか?
(孝太さん)
きっかけは、ある方がYouTubeで弊社の会社を紹介してくれました。その時に初めてドローンを見たのですが、社長が「こういう資格があるらしいから取ってこい」と言うのでチャレンジしました。その後、指導員の資格まで取得しています。
━━ドローンの活用で何か変化はありましたか?
(孝太さん)
ドローンはお客様の満足度向上につながっています。たとえば、施工前と施工後の写真を撮ってプレゼントしています。通常、お客様が「わが家」の屋根を上空から見る機会はありませんよね。
ドローン自体で仕事を獲得しているわけではありませんが、お客様に付加価値を提供しています。少しでもお客様が喜んでくれるアイテムになればと思っています。
━━他にもドローンの活用例はありますか?
(孝太さん)
丹波篠山市で田んぼの朝焼けシーンも撮影しました。あとは、同市の結婚式が挙げられるロッジで、ドローン撮影の依頼を受けたこともあります。
技術と心を伝えるOJTの現場
━━瓦を設置するためには資格が必要ですか?
(常峰さん)
『かわらぶき技能士』の資格が必要で、弊社では一級技能士が3人います。また診断するための「瓦屋根診断技師」といった資格もあります。
(孝太さん)
弊社の強みは1級・2級の上級職人が多いので、資格取得のサポートも行っています。資格取得をするためには結構なお金がかかります。
たとえば、実技試験のためには瓦を自身で購入しなくてはいけませんし、施工するための道具も必要です。そのような試験で使う道具類も弊社が負担します。手厚いOJT(On The Job Training)が他の会社とは違う点ですね。
━━現在も瓦の需要は多いのでしょうか?
(孝太さん)
ありがたいことに、この地域にはまだ入母屋造(いりもやづくり)の家が結構あります。瓦で一番難しいのは入母屋です。瓦職人になりたいと思っても、全国的に学べる現場が少なくなっています。弊社は田舎だからこそ、学べる現場があります。
━━それは若手育成にも良い影響がありそうですね。
(常峰さん)
都市部では減少傾向にある瓦屋根の需要が、この加東市ではまだ健在です。若手職人が技術を磨く機会に恵まれているんですよ。
瓦施工は職人が手がけるアート作品
(常峰さん)
和瓦の施工は芸術品を仕上げるようなものです。たとえば、入り前という部分では、瓦を1枚1枚積みますが、職人によって形が異なります。『勢いのある屋根』にするか『優しい印象』にするかで職人の個性が出ます。
━━なるほど。瓦の施工はアート的な側面があるのですね。
(常峰さん)
同じ形の家でも、瓦の並べ方一つでまったく印象が変わります。昔はもっと家らしく見せるために、高く積んでほしいという要望もありましたが、最近では反対に地震が怖いのでシンプルな形を好む方も多いですね。
━━なるほど。ちなみに瓦職人の技術を競うような大会はありますか?
(常峰さん)
はい、「全瓦連技能グランプリ」という大会があります。瓦部門、板金部門、建築部門といった具合に、同じ会場で年に1回開催されます。時間を区切って練習しているので、3ヶ月は通常の仕事ができないですね。
━━大会ではどのようなことが行われますか?
(常峰さん)
職人が一人ひとり、決められた時間内に瓦を葺いていきます。大会の休憩中は周りのメンバーがお茶を出したり、汗を拭いたりサポートします。
━━まるでF1レースのピットみたいですね。参加者はどのように選ばれますか?
(孝太さん)
都道府県の代表として選ばれています。兵庫県でも組合を挙げて取り組んでおり、過去の成績もあるので県のプライドをかけて挑むんですよ。
(常峰さん)
弊社からも10年前に一人の社員が出場しました。従業員みんなで応援に行って、横断幕を掲げて「がんばれ!」って応援したので本当に力が入りますよ。
━━そういった大会は若手育成にも良い影響がありそうですね。
(孝太さん)
たしかに技術を競い合う場があれば、若い職人のモチベーション向上にもつながるかもしれません。グランプリを目指す若手が入ってきてくれたら、会社を挙げて応援したいですね!
━━今後はどのような人材を求めますか?
(孝太さん)
やはり自分の技術を高めたいという意欲のある人が良いですね。この仕事は1年や2年で覚えられるものではなく、最低でも10年はかかります。
ぼくは愛知県に修業に行ってましたが、その時の親方は72歳でした。「60歳を過ぎてからこの仕事が分かるようになった」と言っていました。「そのうち瓦の声が聞こえるぞ」なんて言う面白い人でした(笑)
━━粘り強い人が向いていますね。技術以外に重視していることはありますか?
(常峰さん)
お客様とのコミュニケーション能力も大切にしています。昔は「職人は黙って仕事をしていればいい」という考えでしたが、今はそうはいきません。口下手な者にはベテランをつけたりして、バランスを取るようにしています。
(孝太さん)
この仕事の良さは、どんなお客様にも感謝されることです。猛暑や厳寒の現場で仕事をしていると、お客様から「ありがとうね」と言われます。こちらが仕事をいただいているので「ありがとうございます」というは普通ですが、お客様からそんな言葉をいただけると、本当にやりがいを感じますね。
その気持ちを感じながら、自分の技術を高めてお客様に還元できる人が、この業界には向いていると思います。
(常峰さん)
今の若い人は、どちらかというとすぐに結果を求めがちです。でも、この仕事はすぐに結果が出るものではないから、長く続けて少しずつ覚えていく必要があります。
昔ながらの職人のように「自分の技術を高めたい」という気持ちを持っている人が理想です。そんな気持ちを持った若い人に来てもらえると嬉しいですね。技術だけじゃなく、心も持った職人になってほしいと思います。
瓦を並べるのが職人の醍醐味
続いて、職人の福井亮太さんにお話を伺いました。瓦職人の魅力と職場環境の良さについて語っていただきました。
━━入社のきっかけを教えてください
(福井さん)
元々、建築関係が好きで、塗装業とか解体業をしていました。常峰瓦店に来る前は、一度現場仕事から離れていました。以前から、屋根とか高いところに興味があって、「ちょっとやってみようかな」と思い入社しました。
━━実際に仕事をしてみていかがですか?
(福井さん)
実際に仕事をすると、瓦の魅力に取りつかれました(笑)
瓦は焼き物のため、まっすぐではなく少し捻っているのですが、それを並べるのが面白く、パズルみたいな感じでハマりました。
━━どんな時にやりがいを感じますか?
(福井さん)
完成したときにお客様がすごく喜んでくれるのがやりがいです。「こんな暑い時にごめんね」「ありがとう」とか、そういう風に言ってもらえるのが嬉しいですね。
━━加東市で働くメリットを教えてください
(福井さん)
景色が良いのと、焼き鳥がおいしいことです(笑)
あとは、子育て環境が充実しているのもいいところだと思います。都会過ぎず、かといって田舎過ぎず、程よい環境ですね。大阪や神戸にもすぐ出られるので、アクセスもいいです。
━━仕事の難しさや厳しさはどうですか?
(福井さん)
とくに夏場は大変ですね。屋根の上は40度以上になります。でも、そういう厳しい環境を乗り越えるのも、この仕事の醍醐味です。
━━今後の目標を教えてください
(福井さん)
今の技術に満足せず、どんどん技術を向上させていきたいですね。会社の信頼も背負っているし、地域の信頼も背負っていると思うので、常に向上心を持って仕事に取り組んでいきます。
━━これから新しく入社する方に向けてメッセージをお願いします
(福井さん)
昔みたいにガミガミ怒るような人はいないので安心してください。入社したら優しく指導します(笑)
長い目で見て、ゆっくり技術を身につけてほしいです。体力をつけることも大切ですし、先輩の仕事ぶりをよく見て学んでください。自分のペースで成長していけばいいと思いますよ。
━━そう言ってもらえたら、若い人も安心して働けますね。
会社名 | 株式会社常峰瓦店 |
所在地 | 〒679-0222 兵庫県加東市高岡2180 |
事業内容 | ・瓦の販売および施工 ・屋根工事全般 ・ドローンを用いた屋根点検 |
HP | https://tsuneminekawaraten.com/ |
TEL | 0795-48-2358 |
SNS | https://www.instagram.com/tsunemine_kawara/ |
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