「加東市にこんなカッコいい会社があったんだ」
プッチンプリンやハーゲンダッツの容器をはじめ、身近なプラスチック製品を手がけるアスカカンパニー。加東市河高の本社を案内していただいてまず感じたのは、洗練された内外観のカッコ良さだ。
本社工場の2つの建屋(S棟とN棟)は2006年と2013年に竣工した建物で、白を基調とした清潔感のあるデザインになっている。
驚いたのはN棟のエントランス。その落ち着いた雰囲気から、「ここが工場?」と錯覚するほど。
S・N棟の社内には、社員がくつろげるリビングやカフェテリアなどもあり、「こんな会社で働いてみたいなあ」とうらやましく思った。
加東市高岡には、2017年にリニューアルされた「KY House」と呼ばれる建物がある。
旧工場の躯体を活かしてフルリノベーションされた建物で、創業の精神の継承を目的に〝京都化成工業〟という創業時の社名の略称(Kyotokasei Memorial House)がつけられている。
さらに東北に足を延ばせば、2018年に誕生した「ナレッジパーク」がある。
名称を「〇〇工場」ではなく「ナレッジ(知識)パーク(公園・場所)」としたのは、「アスカカンパニーが築いた知識や技術を社会と共有したい」との思いからだ。
デザインにこだわりつつ、その裏に思いやビジョンが込められている――建物を知るだけでも、アスカカンパニーは自社の歴史や資産を礎に、社会と接続して豊かな未来を創り出そうとしている会社だと理解できるだろう。
プラスチック成形を軸に半世紀
さて、そんなアスカカンパニーの設立は1968年。2018年に設立50周年を迎えた歴史ある会社だ。ただし創業地は加東市ではなく、現社長の父長沼誠一郎氏が尼崎市大西に京都化成工業株式会社を設立したのが歴史の嚆矢(こうし)となる。
加東市への進出は設立翌年の1969年。縁戚を頼って滝野町高岡(現加東市)の納屋を借り受け、仮工場を建設してプラスチック成形品の製造販売をはじめた。72年には同じく高岡に関西工場を竣工、82年に本社を高岡に移転し、名実ともに〝加東市の会社〟になったわけだ。
現在のアスカカンパニーの業容は幅広く、事業領域は「プラスチック」「メンテナンス」「機器システム」に大別される。
「プラスチック」は創業事業であり、前述したようにプリンのカップや化粧品のキャップをはじめ、食品からトイレタリー、文房具、ライフサイエンスに至るまで、「この商品、見たことある!」と誰もが知る身近なプラスチック製品を数多く手がけている。
「メンテナンス」はプラスチック成形の命といえるほど大事な金型を扱う事業。関連会社のトムスと協業し、金型の製作からメンテナンス、クリーニングまで行っている。
「機器システム」は本業で蓄積したものづくり技術から生まれた事業であり、製品評価や生産性向上にかかわる機器を自社で開発している。開発した機器は自社工場で活用するのはもちろん、使い勝手を追求した現場目線の機器として製品化し、一般販売まで行っている。
機器システムの自社開発で品質レベルを向上
以上の3つの事業領域で展開するアスカカンパニーの一番の強みはなんだろう。長沼恒雄社長に尋ねると、「アイデアスケッチから知財調査、製品設計、金型製作、製品評価、製造まで一貫対応できる点もそうですが、何よりの強みは品質レベルの高さなんです」と答えてくれた。
現場を見ながらより詳しく話を聞くために、工場を案内してもらうことに。
「ここは2重構造のクリーンルームになっていて、ホコリはもちろん浮遊菌などの異物混入を徹底排除しています。空気が限りなくきれいなので花粉症の人はラクだと思いますよ(笑)」
そう冗談も交えながら説明いただいたものの、工場内には人の姿がほとんど見られない。
「理由は生産の無人化を進めているからです。自動化に必要な機器システムを自社開発し、品質レベルの向上につなげてきました。すでに夜間は無人操業が実現しているんですよ」
そう長沼社長が話すように、同社では無人工場のオートメーションシステムを内製するとともに、製造中の品質を常時監査するための検査機器も自社開発。画像処理によるカメラ検査で全数品質保証体制も築き上げている。
「さらに注力しているのがビッグデータの活用による生産現場のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)化です。生産機器にセットしたセンサーから稼働データを集めて解析することで、成形品の良否判断や成形装置の故障予測に役立てているんです」
「人々が成長し社会に貢献できる場の提供」
アスカカンパニーの魅力は生産技術の高さだけではない。従業員一人ひとりが成長できる環境づくりと、個々の働き方に合った組織づくりにも力を入れてきた。
そのベースにあるのが、「人々が成長し社会に貢献できる場の提供」という企業理念。長沼社長は説明する。
「顧客満足の追求とよく言いますが、当社では従業員一人ひとりの成長を先に考えます。人が成長することでお客様のニーズに応えられるようになり、結果として社会に貢献できる会社になれるからです」
成長できる場づくりの根幹を担うのが、1978年のキックオフ以来、途切れることなく行ってきた「MK活動(QC活動)」だ。〝MK〟には〝みんな(M)で改善(K)、みんな(M)で活動(K)〟という意味があり、文字どおり全社員が参加する。
このMK活動の期間は計6ヶ月にわたり、部署を横断して編成した10人前後の小グループで進めていく。毎月2回のミーティングの中で職場の問題を議題に挙げて議論し、解決策の考案から実践、評価まで実施。最後には、取引先企業なども招いた成果発表会で成果を報告し、優秀チームが表彰される。
「MK活動の特徴は『楽正早案(らく・せい・そう・あん)』という基本精神にあります。『より楽に楽しく』『より正しく正確に』『より早く』『より安心安全に』という意味が込められていて、活動を通して社員の成長を促すこと、そして働く環境を良くすることに主眼を置いてきました」と長沼社長。
リーダーは役職に関わらず、若手からベテランまで持ち回りで任命される。入社間もない時期にリーダーに抜擢される機会も少なくない。
「たとえば50周年史を社内制作した際には入社3年目の若手女性社員がリーダーとなり、見事につくり上げてくれました。社史づくりを通して会社を知り、未来につないでほしい――そんな思いでリーダーを含めた制作メンバーを若手で固めたんです」
そう狙いを話す長沼社長はひと呼吸置き、こう続ける。
「MK活動は私たちの企業文化であり、この活動を通して歴代の社員が成長し続けてきました。この活動が終わるときはアスカカンパニーという会社がなくなるとき、そう言っても過言ではありません」
仕事と家庭を両立しやすい制度と社内の理解
働きやすい組織づくりの取り組みも魅力的だ。ワーク・ライフ・バランスを重視した制度を充実させているからである。
平均年齢の若い同社では子育て世代のパパ・ママが社員の約4割を占め、子どもを持つ女性社員も正社員勤務が大半を占める。
そんな働き方を支える制度のひとつが「短時間勤務制度」だ。個人別に勤務時間を設定でき、夏休みなどに限った利用も可能。正社員の約10%がこの制度を利用するほか、時短勤務で育児を行っている管理職もいるという。さらに「育児休業制度」の取得率も100%だ。
「制度はあるけれど取りにくい、そんな声をよく耳にしますが、当社には男女かかわらず仕事と家庭を両立しやすい風土が根づいているんです。実際、育休や時短勤務を利用してきた歴代社員や、現在も取得中の先輩社員がたくさんいますから。後輩社員にとっては、そんな先輩の姿は参考になると思いますよ」
なかでも驚いたのは、在宅勤務を10年以上続ける女性社員がいらっしゃること。
「もともと本社で働いてくれていたんですが、ご結婚を機に旦那さんの出身の滋賀県に転居することになりました。仕事熱心な方なので、『育児をしながら働き続ける姿を後輩たちに見せてあげてほしい』と彼女に伝え、会社からテレワークを提案したんです」
それから14年、4人のお子さんに恵まれた現在も育児をしながら在宅勤務を続けているとのこと。インターネット通話で朝礼に参加し、仕事はプラスチック原料の開発のほか、省庁に補助金を申請する際の書類づくりなどを担っているそうだ。
求める人材像は「成長したい思いが強い人」
現在、女性社員比率は40%を超えるとともに、女性管理職割合も約17%と高い。一連の取り組みが評価されたアスカカンパニーは、2018年度の「ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰」と「ひょうご女性の活躍推進企業表彰」を受賞している。
そんな同社では、人材不足や採用難が叫ばれる中でも応募者が年々増加し、2019年度(2020年度?)は高卒4名、大卒6名を採用した。求める人材像を長沼社長に質問すると、「成長したい思いが強い人ですね」と答えてくれた。
「しかもその成長とは仕事だけに留まりません。人として成長したい、信頼される人になりたい――そうやって目標を持ち、前向きに人生を歩もうとする活気ある若い方にぜひ来ていただきたいですね」
そう力を込める長沼社長は現在、加東市商工会の副会長を務めている。中小零細企業の人材難が全国的な課題となるいま、「地元に対して貢献できることを模索している」と言う。
「人材不足を解消するために取り組んできた私たちの採用活動の経験やノウハウを活かし、地元企業に何らかのアドバイスができればと考えています」
さらに長沼社長の研究テーマ(後述)でもあり、アスカカンパニーですでに実践しているIoTを市に広める構想も描く。
「たとえば加東市がデータサイエンス企業を誘致し、〝IoTのまち〟を打ち出せば、地元が活気づくと思うんです。理解されるには時間がかかりますが、磨いてきた生産技術を活かした提言も加東市にしていきたいですね」
経営者紹介
代表取締役社長 長沼恒雄さん
根っからの製造畑が高じて故障予測システムを自ら開発
創業者の父は出身の東京から関西に来て独立した影響もあり、私は大阪府の茨木市で生まれ育ったんです。大学卒業後はアスカカンパニーの得意先であるサクラクレパスさんに入社し、2年半ほどお世話になりました。
その後、同社で手がけたプラスチック製品と設備機器を丸ごともらい受けるかたちで退職し、1982年にアスカカンパニーに入社。東北工場で3年勤務し、1986年に加東市にやってきました。東北時代も含めて一貫して製造畑の道を歩んできた感じですね。
1996年からの10年ほどはアメリカに住んでいました。現地工場を立ち上げることになり、その責任者として私が設立から運営まで陣頭指揮を執ることになったからです。このアメリカでの経験が、当社の働き方の整備や組織づくり、建築デザインなどに活かされているかもしれません。
アメリカから帰国した2005年に父から社長を譲り受けるとともに、弟が副社長に就任しました。以降、先代の時代から続く「人々が成長し社会に貢献できる場の提供」という企業理念を大切に、人に恵まれながら加東市の地で経営を続けることができてきました。
私自身、根っからの製造畑なので、社長になってからも現場に出続けているんです。主に手がけているのは、自ら研究題材にしている機器の開発です。というのも現在、東北大学大学院でデータサイエンスの研究をしているからです。
その成果のひとつが成形装置の故障予測システムの開発です。日本機械学会で論文を発表したり、プラスチック成形加工学会で講義をしたりと、現場改善を追求するうちに活動範囲が広がってきました。
研究成果を本業に活かし、本業の成果を地域社会に還元する。そうやって当社を育ててくれた加東市に恩返しができれば嬉しいですね。
従業員紹介
畑瀬美早紀さん
実家から通える会社に焦点を当てて会社探し
加東市出身の私は西脇高校を卒業後、島根大学に進学して中国地方で4年間を過ごしました。松江に母の実家があり、安心感があったのも進学先を選んだ理由のひとつです。
就職活動は〝加東市の実家から通える会社〟に焦点を当てて行いました。大学時代に祖母が倒れたとき、母が松江まで通うのに苦労している姿を見て、両親の近くにいればお互い安心と思ったからです。
地元企業を中心に会社選びをするなかで、アスカカンパニーに興味を持ったのは「プッチンプリンのカップをつくる会社が地元にあるんだ」と知ったのがきっかけですね。採用試験前に先輩の女性社員から話を聞く機会もあり、若い方が楽しく働いている雰囲気に好感を持ち、最終的に志望して内定をいただくことができました。
入社後は新卒採用の担当者として充実の日々
2017年に入社後、HR(ヒューマンリソース)グループに配属となり、主に新卒採用と企業ブランディングを担当しています。
採用活動では合同説明会への出展やインターンシップの開催などを手がけるほか、「地元で働く」といったテーマで大学で講義をさせていただくなど、やりがいのある仕事を任せていただいています。
企業ブランディング活動では各種の企業表彰や認定取得のためのデータ分析、プレゼン資料作成、取材対応などが主な内容ですね。
アスカカンパニーに入って実際に働いての感想ですが、入社前に抱いた雰囲気そのままの楽しい職場で、フランクな感じで話しかけやすい方が多いんです。長沼社長のお人柄も影響しているのかなと思っています。
あとはやっぱり、女性の働きやすさですね。女性管理職の方々が短時間勤務制度を利用して働かれている姿を見て、私もあんなふうに家庭も大事にしながら仕事を続けたいなと思っています。
とはいえ女性に限らず、たとえば育休を取っている先輩の男性社員もいるんですよ。お子さんの育児で皆さん同じような経験をされているので、社内の理解があるのも働きやすさのひとつになっていると感じます。
地元で働く良さは、何より両親の近くで安心できることですね。あとは、そもそも私は都会の人混みが苦手で、田舎が好きなんです。車を使えば買い物にも行けますし、生活にも困ることもありません。デメリットは、やはり公共交通機関ですかね。でも都会の満員電車に乗ることを思えば大したことではないです。
仕事はとても充実しています。たとえば私が採用担当になってから昨年度の応募人数が一昨年の倍に、今年度の応募人数が昨年度の倍に増えました。
合同説明会に参加してくれる学生さんは当社のことを知らない方がほとんどですが、私の話を聞き終わると「会社を好きなのが伝わってきました」「雰囲気がいいのが伝わってきました」と感想を言ってくれたり、「一度見学に行きたいです」と興味を持ってくれたりするのがとても嬉しいですね。
就職活動をされている方にお伝えしたいのは、興味のある会社には直接足を運び、社内や働いている人の雰囲気を感じてほしいということです。説明会や会社のHPなどだけで判断せず、実際に会社を見ることで得るものがあるはずです。もちろん私たちも皆さんをお待ちしていますよ!
文・写真/高橋武男
令和2年度 加東市商工会企業紹介PR事業