ものづくりと職人育成の最前線、まちの鉄工所
国内産業の根幹を担い続けてきた、ものづくり。その最前線の一つが、まちの鉄工所だ。生活用品から建築資材、機械の部品にいたるまで、さまざまな分野で活躍する鉄製品の製造・加工を行っている。一方、熟練技術者を育む技能継承の場としての役割も果たすなど、鉄工所は私たちの暮らしを支える重要な現場だ。
大量生産・大量消費から製品のストーリー重視へ、ものづくりの価値が変化を見せる近年、鉄工所もIT化や機械技術の高度化を導入。なかでも溶接は、熟練の手技による繊細な技術と、ロボットによる効率化やハイレベルな品質の均一化といった、ハイブリッドな製造・加工が主流になっている。そんな時代の変化を、常に先取ってきたのが株式会社フクハラ(以下、フクハラ)だ。
時代の一歩先を歩み続けた60余年
フクハラの歴史は、1960年に始まった高度経済成長とともにスタートした。創業者である福原忍氏が、1961年4月、福原溶接工業を創業。大型景気のもと、機械産業の急成長による大幅な鉄工需要の拡大に背中を押され、溶接機1台から始めた事業は徐々に成長。1970年には、現在の敷地に工場を建設し、有限会社福原溶接工業(1993年、株式会社フクハラに組織および社名変更)として法人化を果たした。
周囲の鉄工所に先駆け、早期からロボット溶接を導入するなど量産にも対応し、1980年代に入ると、大手メーカーの協力工場として住宅の仮設部材(足場)の製造を開始した。
1989年には、2代目である実氏の入社をきっかけに、溶接ロボットを増設し第2工場も増築。さらに、CO2レーザー加工機の導入など、常に時代の流れを先取った取組を重ね、1998年12月、実氏が2代目の代表取締役に就任。初代・忍氏から受け継いだ、「短納期」「高品質」という、ものづくりへの実直な姿勢を守りながら、14人の従業員たちと日々挑戦を続けている。
切る・曲げる・接(つ)ける
鉄工所の「製造・加工」とは、クライアントから届く設計図をもとに、鉄などの金属資材を形づくり、製品にする仕事だ。フクハラでは、「切る(切断・穴あけ加工)」「曲げる(切断・抜き・成型)」「接(つ)ける(溶接)」といった作業によって、一品目・小ロット多品種から量産品まで、幅広く対応している。
創業時からのアーク溶接加工(空気中の放電現象を利用して金属同士をつなぎ合わせる加工)、金属プレス加工(金属板に金型を押し付けて成型する加工)をはじめ、ロボット溶接機による溶接、さらにはCO2(炭酸ガス)レーザー加工機によるSS材(鉄を主な成分に含む材質鋼)、SUS材(ステンレス鋼の金属素材)の精密溶断にも対応。
切断から曲げ、溶接、時には部品の取付や組立まで、一貫加工が可能だ。一方、社内で対応ができない切削加工などは、外注先との協力による徹底した分業体制で、作業の効率化と品質向上を図っている。
製造品は、住宅建設時に使用する仮設部材や、農機具部品などが中心。最近では、実氏の次男、孝基氏が勤務するバイクショップが販売する、バイクパーツの製造も請け負っている。
その他、店舗の看板や什器、モニュメントの製作、さらにはコロナ禍をきっかけに生まれた、アイアン製プランツシェルフなど、メーカーの協力工場としてだけでなく、エンドユーザーを対象にしたオーダーメイドも扱っている。
そんなフクハラが多くの取引先に選ばれてきた強みは、機械が好きだった初代の、先見の明から生まれていた。
事業を成長させた、ロボットとの共存
フクハラの強みのひとつは、早期からロボットによる溶接を導入してきたことだ。
「人間の手による作業以外に抵抗を感じる鉄工所が多い中、弊社は、基本的に溶接はロボットが行う作業だという認識です。高精度かつ高効率な溶接ロボットは、仮設部材などの量産品の製造には欠かせない戦力です。特に最近は、品質だけでなく見た目の美しさも求められ、ロボットによる溶接を希望されるクライアントも増えています。人の手による作業では、溶接の継ぎ目にブレが生じがちです。その点、ロボットならどれだけ溶接作業をしても、ほぼブレることなく美しく仕上がります」と、専務取締役を務める福原拓己氏は話す。
溶接ロボットによる作業では、上下左右の角度や回転の動きを、製品ごとにロボットのアームに記憶させ、溶接箇所で電流を流すプログラミングを行う。フクハラの従業員たちは、こうしたロボットの動きを、誰もが管理できるほど身近な道具として扱っている。
もうひとつは、CO2レーザー加工機を所持していることだ。「受注の間口が一気に広がった」と実氏が話すほど、事業分野の拡大につながっている。近隣の鉄工所が導入に二の足を踏む中、およそ30年前から設置し、現在は2台が稼働中だ。
このレーザー加工機による製品は、資材やパーツだけでなく、店名やロゴマークをデザインしたオリジナルのアイアン看板も人気がある。デザイン業務もこなせる拓己氏が、依頼主と打ち合わせを重ねながらパソコンのデザイン専用ソフトを駆使し、イメージ通りの製品に仕上げている。
実氏は、拓己氏の入社がフクハラの大きな転機につながったと語る。
3代目が取り組む、鉄工所のIT武装
溶接ロボットの普及をはじめ、近年のデジタル化の波は、まちの鉄工所をも飲み込んできた。さらに新型コロナウイルスの流行で、オンラインを取り入れた生活が定番化していく中、事業の維持も拡大も、IT化が進む設備への対応が必須となっている。
そんな時代の変化を苦にせず、新たなチャンスとして事業拡大につなげる原動力となったのが、拓己氏だ。大学ではコンピュータサイエンスを専攻し、プログラミングを研究。在学中から音響制作に携わったり、卒業後にはウェブデザインの勉強にも取り組んだりしたことで、情報発信はもとより工場内のIT化対応にも大きく貢献している。そんな拓己氏がもたらした「転機」は2つだ。
ひとつは、日々IT化が進む社内設備を、従業員に浸透させていることだ。社内にはIT化への対応を、苦手に感じる従業員も多い。拓己氏は、そんな従業員たちの質問や相談を一手に引き受け、瞬く間に社内で頼れる存在になった。溶接ロボットやレーザー加工機などの設備を、誰もが身近な道具として扱えるようになったのは、拓己氏と従業員のコミュニケーションのたまものだ。
そしてもうひとつが、エンドユーザーに向けた製品開発と、SNSを活用した販促だ。
「たまたま近所の人に、アイアンのプランツシェルフを作れないかと相談されたんです。ステイホーム期間にちょうど自分も似たような観葉植物を育て始めていたので、お引き受けしました。」と拓己氏が話すように、客層の拡大にもつながった。
さらに、できあがった製品をSNSに投稿すると、見積もりの依頼が届くようになり、店舗の看板やガーデニング用品など、現在も月に数件の依頼や相談があるという。
「今までは、取引先や、取引先から紹介されたという顧客からの依頼が中心でした。最近は、まったく知らない方からも問合せが届きます。仮設部材は、弊社の製品だと一般の方にPRできませんが、アイアン製品が店頭などに設置され、SNSで発信されれば、『あれがフクハラの仕事だ』とわかっていただけます。私たちの仕事が、地域に残っていってくれればいいなと思います」
今後は、新しい事業の柱をもう一つ据えたいと話す実氏。拓己氏と共に、今の事業を維持しながら、新しいことも取り入れていきたいと語る。
明日を担う、縦につながる足場と人工知能研究
そのひとつが、住宅建築以外の仮設部材の製造だ。新築住宅の着工件数の減少や、建設期間の短縮などにより、仮設部材の生産数が減っている昨今、メーカーは、仮設部材を横に広げるだけでなく、土木建設の場面などで縦につなぐ使い方を模索。川の上に仮設部材を組めない橋の点検などのため、橋桁から吊り下げて使えるものを開発中だという。フクハラが力を発揮するのは、そんなメーカーから依頼される新製品の試作だ。展示会で手ごたえをつかんだニーズをもとに、協力工場として本格的な製造を目指すという。
そしてもうひとつが、AIの研究と活用だ。すでに大手企業で導入されている製品の欠陥認知システムを、資本力のない中小零細企業でも導入できるよう、研究を始めたいと拓己氏は話す。
「人の目だけの確認では、小さな不良を見落としてしまうなど、どうしてもミスが出ます。地上から高く組み上げる仮設部材に欠損があると、死亡事故が起こりかねません。人の目だけでは足りない部分をAIで補えないか、大学と提携して共同研究ができれば。いずれそれを弊社の商品として、事業の柱に育てたいと考えています」
自らがそうした研究に取り組もうとしていることを発信したり、製品化をかなえたりできれば、フクハラに興味を抱く人が現れるのではないか――。そんな期待もあることを、拓己氏は明かしてくれた。
変わりながら、変わらないこと
フクハラに興味を抱いてほしいのは、「好奇心の強い人」と言う拓己氏。レーザー加工、プレス加工、ロボット溶接など、どの工程や設備、機械にも、興味を持ってほしいと話す。
「自分自身も好奇心が旺盛で、DJをしたり、写真を撮ることが好きだったり、ライブ配信もできる機材や音響機材も揃えたりしています。例え興味を持つ分野が違っても、好奇心を持っている人のほうが、人生を楽しめると思うんです。そんな人がフクハラに来てくれたら、周りの従業員たちもきっと楽しくなれると思うから」
そんな拓己氏の話を受け、実氏が口を開いた。
「2代目の私は、会社を維持するだけで精一杯でした。平成から令和にかけて、リーマンショック(*)が起こったり、地震や水害といった大災害がいくつも発生したりしましたが、経営の危機にも災害の被害にも遭わず、取引先も変わらぬお付き合いを続けてくれています。さらに、後継者がなく次々に存続の危機に直面していく鉄工所が増える中、弊社は3代目への継承も決まっています。ありがたいことだと感謝しているんです」
近年は、取引先にも世代交代が始まり、時には実氏がアドバイスをすることもあるという。
「提示された図面に違和感を覚えた時は、『この方法で大丈夫ですか?』『この指示が出ている理由は?』と、確認し、これまでの取引状況に基づいて、新たな提案を行う場合もあります。お付き合いを何十年にも渡って継続できていること、その間に信頼していただける関係を構築できたことも、弊社が胸を張れることです」
実氏が、若い人材へ伝承したいのは、ものづくりの技術だけではない。ものづくりに携わる現場なら、誰もが口にする「納期厳守と、高品質な製品づくり」の姿勢。事業の継続と発展には、それが何より大切で、何よりも難しいことを、実氏は知っている。
*リーマンショック:2008年9月、アメリカの有力投資銀行であるリーマンブラザーズの破綻によって広がった、世界的な株価下落、金融危機、同時不況
経営者紹介
代表取締役 福原 実さん / 専務取締役 福原拓己さん
ものづくりのまち「加東市」を発信し続ける
(代表取締役 福原 実さん)
先代が創業したきっかけは、早逝した父親に代わって母親や妹を養うためでした。1台の溶接機から始めた事業を現在の規模にまで成長させ、取引先の倒産などの危機も乗り越えて、私に引き継いでくれました。
私は家内との結婚を機に、1989年にフクハラ(当時の有限会社福原溶接工業)に入社しましたが、溶接の経験もなく、とにかく挑戦するしかありませんでした。
結婚前は、バイクショップでバイクの整備などに携わっていました。独立してバイクショップを始める夢を、義父も認めてくれていたんですが、いろいろ考えた末、バイクは趣味として封印。後継者として生きる道を選び、1997年に38歳で義父から2代目を継承しました。
実は、バイクだけでなく車も大好きなんです。結婚前からの愛車は、1973年に製造された「TOYOTAカローラレビンTE27」。車が生まれて50年、私が所有して36年になりますが、今も現役で走る大切な相棒です。一般社団法人兵庫県自動車整備振興会の冊子でも、紹介していただきました。そんな私の車好き、バイク好きは、次男が引き継いでくれました。今、淡路市のバイクショップに勤めながら、パーツ製造の仕事を通じて、弊社とのつながりを生み出してくれています。
一方、鉄工所は2014年に長男が入社し、専務取締役として働いています。卒業後は地元へ戻り、3代目を継承する約束を交わして、東京の大学へ送り出しましたが、Uターン後は初めての溶接にも取り組み、技術を身に着けてくれました。その一方で、ITの知識やスキルを活かし、現場のサポートをしてくれています。従業員たちも、ロボットや機械の調子が悪くなると、私ではなく専務に相談するんです。的確な指示を迅速に出してくれるので、従業員たちとの信頼関係もすぐに構築できました。
これからの鉄工所は、技術だけを磨いたり、今の事業の延長にだけ取り組んだりしていては、衰退の一途をたどるのは火を見るより明らかです。3代目の強みを活かし、どんどん新しい取組に挑戦してほしい。その一つの形として、兄弟で仲良く新しい事業に取り組めたら、楽しいだろうなと想像したりしています。
創業以来、加東市で事業を続けて60余年。加東市を、ものづくりのまちとして発信する一端を担い続けていることも、ひとつの地域貢献かもしれないと自負しています。
好奇心を味方に、フクハラの看板を守ってゆく
(専務取締役 福原拓己さん)
フクハラに入社するまで、全くと言っていいほど金属加工に触れたことはありませんでした。大学の授業で、旋盤を削る体験をした程度です。加東市に戻り、現場でもまれながら、一から学んでいきました。
学生時代は、コンピュータプログラミングの勉強だけでなく、サークルの活動やアルバイトで、音響制作にかかわる活動に取り組んでいました。時折、DJとして活動したり、趣味として映像の制作も行っていたんです。
就職活動を始めようとした年、東日本大震災が発生し、関東での就職がほぼ不可能になってしまいました。せっかくなら、もう少し自分の身になることを勉強しようと思い、ウェブデザインを学びました。
今、フクハラでは、新製品のお知らせをSNSへ投稿したり、YouTube動画で発信したり、会社のホームページを管理したりしています。東京で経験したのは、フクハラの仕事とは全く異分野のことでしたが、すべて活かせているのが面白いなと感じています。
入社後は、とにかくやるしかありませんでした。「現場での作業をきちんとやれてこそ、別の分野のこともできる。次のステップに進める」と思ったので、不平不満を口にせず、技術を磨いて自分のものにしようと、精一杯やってきました。
ある時、溶接技術を教えてもらっていたスタッフに「専務も、JIS溶接技能者資格取得に挑戦しましょう」と誘ってもらったんです。溶接の原理や設備のこと、溶接の方法や欠損といった筆記試験の他、板を溶接でつなぐ実技の試験があります。勉強と練習を一生懸命続け、溶接の基本を身に着けることができました。一人前の溶接工としての証明を、手に入れることができた気持ちです。
私は、いろいろなことに興味を持つ人間ですが、興味を持ってさえいれば、何でも自分で調べられて取り組める、今はとてもいい時代です。そんな興味の多彩さに、共感してくれる人が少しでも増え、共に「フクハラ」という看板を、守り続けていきたいと思っています。
従業員紹介
溶接工 奥田慎司さん
「溶接ロボットに、勝てるか!?」
知人の紹介で入社して、まもなく5年になります。溶接工になって10年経ちますが、最初は難しい仕事だなと思いました。仕上がるまでに時間はかかる、溶接しても叩いたらすぐに取れてしまう、見た目が揃わず美しくないなど、失敗だらけ。そばにいた熟練の技術者に、少しでも近づこうと頑張る毎日でした。この仕事の面白さがわかるようになったのは、4、5年が過ぎたくらいからですね。
フクハラに入社したのは、そんな頃です。初めてロボット溶接に携わるようになりましたが、ロボットの仕事ぶりを目にしたとき、最初は「勝てるかな?」と……(笑)。人は、目で確かめながら作業をするので、不良が少ない。一方、ロボットは、どんなに長時間労働をしても疲れないうえ、作業スピードも一定。どちらも一長一短ありますが、手による技術があるから、ロボットの良さもわかるのだと思っています。
追い求めるのは、溶接の美しさ
フクハラでは、足場の製造や、物流倉庫システム装置の製造など、比較的、精度が求められる仕事を任されることが多いのですが、大切にしているのは、作業スピードと仕上がりの美しさです。
作業では、「材料を揃える」「図面を受け取る」「図面を見て作業のポイントを抑える」という準備工程と、作業を始めてから仕上げに取り掛かるまでの工程を、スピードを重視しながら取り組んでいます。そうすることで、時間をかけて丁寧に、最後の仕上げ作業を行うことができるんです。
きれいに仕上げるために大事にしているのは、目にした瞬間に「美しい」と感じる、溶接位置のバランスです。見た目に美しいと、品質の高さをいっそうアピールすることができます。誰もが一目で「美しい」と思えるものに、仕上げることが目標です。
現場には、成長へのチャンスがあふれている
「きれいな溶接やなあ。うちの会社に来てくれて、ありがとう」
入社2年目くらいの頃、社長にかけていただいた言葉です。褒めていただいたことが印象深く、今もいちばんうれしい体験になっています。
フクハラに来てよかったのは、「もっとステップアップしたい」と思える職場環境であることです。今まで、取組んだことの少ない溶接にも挑戦させてもらえたり、溶接に限らずどんなこともレベルアップにつながるチャンスがあります。もっとうまくなろうと、工夫やチャレンジができる環境にいられるのは、職人としていちばんの喜びです。そんな環境を与えてもらっているからこそ、「うまくなりたい」「ステップアップしたい」という、前向きな気持ちでいることができます。
ものづくりの醍醐味を、ともに味わおう
これからの目標は、社員みんなが手技の溶接ができるようになり、不良に気づけるようになることです。「人にやさしく、自分に厳しく」をモットーに、みんなのサポートができるよう、まずは自分の技術を磨きたいと思います。
仲間になってほしいのは、明るく素直な人です。フクハラは、技術のある人にとっては力を発揮できる場であり、これからの人にとってはきちんと指導を受けられる場。アドバイスを素直に受け入れ、実践に移せる人は、やっぱり伸びていくスピードも速いです。思い描いたように美しく仕上がった喜びや、図面通りに完成したときの達成感。そんな、ものづくりの楽しさや醍醐味を、一緒に味わえたらいいなと思っています。
文:内橋麻衣子/写真:高橋武男
※令和4年度 加東市商工会企業紹介PR事業