暮らしを楽しむ空間としての庭
かつて花や緑を楽しむ趣味は、「園芸」や「庭いじり」と呼ばれていた。それが、「ガーデニング」という名で、人気に火が付いたのは1997年のこと。女性誌やテレビで特集が組まれ、その年の「新語・流行語大賞」トップ10に入賞するほど、一大ブームを巻き起こした。住まいの外構を飾るものから、暮らしを楽しむために活用する生活空間へ。庭の在り方は、このブームを通じて大きく変わった。
そんな世の中の流れを地元・北播磨へも根付かせ始めた企業が、株式会社富士川商事ヤシロ店(以下、富士川商事ヤシロ店)だ。2000年、暮らしを楽しむための庭づくりを提案する、エクステリア事業部門が立ち上がった。
写真:富士川商事ヤシロ店提供
エクステリア事業のスタートは、挑戦だった
1970年、代表取締役 赤瀬伸氏の父である勝也氏が、西脇市で建材販売の事業を創業し、4年後に加東市へ移転。1980年には、岡山県北木島(*)で石材加工業を営む実家と連携し、墓石の販売も手掛けるようになった。当時、加東市周辺は区画整理による墓地の造成が始まった時期で、墓石の需要も多かったという。
そんな富士川商事ヤシロ店が、2000年にエクステリア事業を始めたのは、2代目として会社を継承した伸氏の「挑戦」だった。
「墓地の造成が終わったら、墓石の売上は下がっていくだろうと思っていました。墓石販売に代わる事業を模索していた時、エクステリア事業のフランチャイズ加盟店を募集している企業と出会いました。デザインは本部が行い、我々加盟店が施工を手掛けるという契約でしたが、立ち上がってからわずか2年で、本部がエクステリア事業から手を引いてしまったんです」
展示場も用意し、すでにお客様との契約もある。予想していた通り、墓石の売上も下降線をたどり始めていた。
「これはもう、エクステリア事業を軌道に乗せるしかない」
覚悟を決めた伸氏は、建材販売事業を弟の敦氏に託し、外構や庭づくりに関する猛勉強を開始。徐々に顧客も増え、現在はエクステリア事業が全社売上の2割を占めるまでに成長している。
一方、8割近くを占めるのが創業から続く建材販売だ。競争相手であるホームセンターが増え、建材を扱う企業が次々に看板を下ろしていく中、富士川商事ヤシロ店は堅実な取組で業績を伸ばしている。
「弊社は、決して価格競争をしません。商品知識と提案力、機動力で、お客様のニーズに応えています。待ったのない職人さんの仕事に応えられるよう、在庫を揃えて配達し、最適な建材の提案も行います。信頼関係に基づいた『相談できる専門店』として、お付き合いを続けています」
この姿勢こそが、エクステリア事業を伸ばしてきた伸氏のポリシーでもある。
*北木島:瀬戸内の三大銘石の一つ「北木石」の産地として有名
生活動線を取り入れた、付加価値のある庭づくり
「特長のない企業は生き残れない。いちばん強いのは、付加価値のある会社だ」
常々そう考えていた伸氏は、「付加価値のある庭づくりで、生活を豊かにする」という理念を掲げ、エクステリア市場を自らの手で創造し、開拓を続けてきた。
足がかりとなったのは、「ガーデンサービス研究会」だった。全国から44社(2022年10月現在)が集まってそれぞれの情報を共有し、切磋琢磨を続けながら互いに成長を促し合うエクステリアの勉強会だ。そこで伸氏は、「理由のあるデザインで、庭づくりに取り組もう」と、想いを新たにした。
「玄関の前だから門柱を置きましょう、スペースが広いからカーポートを設置しましょうというように、『見栄えがいい』『場所がある』という理由だけで設計された庭もあります。しかし、住宅だけでなく、エクステリアにも生活動線はあります。いくらデザイン性の高いエクステリアが完成しても、日々の生活が不便になってはいけません。理由のあるデザインとは、使い勝手も大切にした庭づくりなんです」
写真:富士川商事ヤシロ店提供
例えば、門柱。来客はどの方角から、どの道を通ってやって来るのかを考慮し、入られたくない敷地の前や、玄関を開けても家の中が見えない位置を計算して配置する。また駐車場は、ムダな動きを増やさないよう、門柱、ポスト、玄関といった動線を考えてレイアウトを決める。
さらに植樹においても、木の成長具合を知っておくことが必要だ。大きく成長する木を門の前に植えてしまうと出入りを邪魔したり、空間を隠そうとして植えた木が落葉樹では、葉が落ちて目隠しの役目を果たさなかったりする。
だからこそ富士川商事ヤシロ店では、最初のヒアリングや打ち合わせを最も大切にする。施主の生活スタイルに合ったエクステリアをプランニングするためだ。
そのために伸氏は、本社の敷地にあった墓石展示場を改装し、リゾートとガーデンセラピー(*)をテーマにしたモデルガーデンを建設。さらに、プレゼンテーション専用スタジオ「ガーデンスタジオ庭楽館」を開設し、大型モニターに映した3DCGパース(*)を使って、プランの提案を行っている。プレゼンテーションでは、パースに描いた石材やフェンスを異なる色やデザインに置き替えたり、施主の頭に浮かんでいるイメージを可能な限り可視化し、イメージの共有を図る。
こうした努力が実を結び、施工した施主の庭が、コンテストで次々に受賞を重ねていった。
*ガーデンセラピー:芳香・園芸・芸術・森林・食事の5つの療法と住まい方療法により、庭が持つ力を活かして心身を整え、健康な暮らしの実現を目指すもの
*3DCGパース:コンピューターグラフィックスを使って、建物の外観や室内のイメージを立体的に表現した画像
数々の受賞が物語る、「心豊かな生活は庭でつくれる!」
富士川商事ヤシロ店が、ガーデンコンテスト(*)に初めて入賞したのは2015年。照明もエクステリアとして捉え、アプローチや前栽をナチュラルな光を使って演出したデザインだった。
「庭をご覧になった奥様が、しばらく言葉も出ないくらい庭の幻想的な光景に見とれられ、喜んでくださいました」
最初の入賞 写真:富士川商事ヤシロ店提供
また、銀賞に輝いたのは和風庭園のリフォーム。灯篭を1本設置するだけの予定が、レイアウトの相談に発展し、さらには全体のリフォームへと施工が広がった庭だ。
「もう、京都まで出かけなくても、我が家の庭にいるだけで京都が味わえる」と言った、施主の言葉が忘れられないと言う。
銀賞 写真:富士川商事ヤシロ店提供
このように「付加価値のある庭づくりで、生活を豊かにする」という理念を実現している富士川商事ヤシロ店。伸氏は、これからの庭づくりは「眺める庭から、楽しむ庭へ」という発想が大切だと話す。
「家から庭へ出るだけで、子どもとダッチオーブンでアウトドア料理を楽しめたり、こだわりの車庫で休日を過ごす時間を増やせたり、日常とちょっと違う生活の要素を取り入れた庭は、家族との関係まで楽しいものに変えてくれます」
富士川商事がつくろうとしているのは、庭ではない。庭づくりの先にある、すべての家庭の豊かな暮らし。そのために伸氏には、取り組みたいことがある。まずは、人材の育成だ。
*ガーデンコンテスト:エクステリア商品の企画販売を行っている企業や研究会が主催する施工例のコンテスト
出会いたいのは、施主様の喜びを自らの喜びにできる人
「庭に詳しくなくていいんです。私の話を聞いて庭に関心を持ち、好きになってくれる人なら大丈夫」と言う伸氏。庭づくりの仕事に最も必要なものは、知識よりコミュニケーション力だと話す。パースによるイメージと、仕上がった庭にギャップを感じさせない説明力や、施主の言葉の奥にある意図を汲み取り、提案につなげるためのヒアリング力などだ。
しかし、伸氏も当初は、施主とのコミュニケーション不足による失敗を数多く重ねてきたと言う。
「失敗しなくてはいけないと思っています。反省しながら成長していくものだからです」
一方、庭づくりの仕事のやりがいは、施主の喜ぶ姿に出会えること。
「施主様が喜んでくださると、本当に良かったと思います。私にとっては、それがすべて。それだけを目指して仕事をしていると言っても、言い過ぎではありません。目に見えないイメージを具体化するのは難しいですが、やりがいでもあります。喜びを一緒に分かち合い、庭づくりの次のフェーズへ進むために、ぜひ力を貸してくれる人に出会いたいと思っています」
庭づくりからはじまる生活提案を目指して
そしてもう一つ、伸氏が取り組みたいのは、庭づくりの流れを変えることだ。庭と住宅を切り離して考える住まいづくりが多い中、庭も住空間として捉えてほしいと話す伸氏。モデルハウスのように、庭づくりを中心とした生活提案ができるツールを思案中だ。
「新築でもリフォームでも、現在のプランニングの優先権は住宅にあります。住宅の完成後に、庭づくりの相談に来られると、面積的にも生活動線においても、不便を感じたり我慢を強いられる生活になってしまいます」
庭と住宅を同時にプランニングすれば、家族の生活スタイルに合わせることが可能になる。例えば、カーポートの位置や広さを最初に決めると、使い勝手の良いアプローチの方向が定まり、最適な玄関の場所を提案できる。「空いているスペースに、とりあえず木を植えておこう」という庭づくりではなく、最初から朝食をとるウッドデッキのスペースを用意できれば、植える木を木陰として活かすことができる。
「どういった生活を送りたいのか、住宅からだけでなく、庭からもアプローチしたいんです。庭が生活に与える影響に意識を向けた時、本当の心豊かな暮らしが生まれると思っています」
経営者紹介
代表取締役 赤瀬 伸さん
会社が目指すべき方向は、どっちだ?
弊社の創業者である父は、採石・加工で栄えた岡山県北木島の出身です。島を出て就職した建材会社から独立し、西脇市で事業を始めたのは私が1才の頃。北木島では祖父が石材加工業を営んでいたため、墓石の販売事業は、祖父のもとで墓石に加工して販売を続けていました。
私は1991年に大学を卒業後、住宅販売会社に入社。埼玉県の支社で営業として働いた後、1995年に加東市へUターンし、富士川商事ヤシロ店に入社しました。
墓石の営業に取り組みながら、常に危機感も抱いていたんです。いつまでも墓石の事業が順調なまま進んでいけないことはわかっていましたし、建材販売もそれほど好調ではない。会社として、進むべき方向がわからなくなっていました。そんな迷子になっていた私が出会ったのが、エクステリア事業でした。
商売の基本は、父に学んだ
「エクステリア事業に力を入れよう」
振り返れば、そう決心できたことが大きな転機でした。住宅建材を販売しているので自社で材料を用意できること、石材の扱いに長けた職人がいること、取引先に外構専門の職人もいることなど、自分の会社でできることが揃っていたため、踏み切れると思ったんです。
ガーデニングが流行し始めていたこともあり、将来性も感じました。庭をつくることが楽しそうで、これからの時代に合っているのではないかと思ったんです。当時は、近隣に競合が少なかったこともあり、続けてゆける商売だと思いました。
「自信はないけれど、とにかくやってみよう」
そう思えたのは、父のおかげでした。父は、時代を先取りしながら商売の形態を変えてきた人。昔から「時代の先を見て商売をしろ。経営が好調な時こそ、次の事業を始める準備をしろ」と、耳が痛いほど聞かされていました。商売の基本を教えてくれる父の言葉に従って、本当に良かったと思っています。
とはいえ、まだまだ事業の展開は試行錯誤。同じことを繰り返すのではなく、新たな方向を思案しています。次のステップへ進むためにも、人を育てたい。ようやく形になり始めた私自身のノウハウを、若い人材に伝えたいと思っているんです。
喜ばれる仕事は、スタッフみんなの力と支えあればこそ
学生時代は美術も技術も苦手だった私が、プランニングを行い、図面を書いてプレゼンテーションをする仕事に就くなんて、思ってもみませんでした。人生には、何が起こるかわからないものですね。
プランニングは楽しいです。着工時には設計通りに仕上がるか緊張しますが、できあがっていく過程が見えるのはワクワクしますし、形になっていく喜びもあります。自分の手掛けた仕事が、ずっと後の世代にも残っていくのだと思うと、大きなやりがいも感じます。いい仕事に巡り合えたと思っているんです。
写真:富士川商事ヤシロ店提供
商売は、続けてなんぼ。続けるためには、「富士川商事ヤシロ店に依頼してよかった」と、施主の方々に喜んでいただくこと。喜ばれる仕事をするためには、従業員や職人を大切にすることだと思っています。積極的にコミュニケーションを取ったり、日常会話を通じてみんなの言いたいことを察したり、風通しのいい職場づくりに尽力しているつもりです。
私自身は、トライアスロンを始めて10年になります。スポーツには苦手意識がありましたが、「やればできる」と、気持ちも充実してきました。仕事に辛さはつきものですが、「辛い」で終わらせることなく成長につなげ、やりがいや楽しさを見つけてほしい。仕事も遊びも一生懸命になることが、人生の楽しさにつながりますしね。
庭の魅力で、Uターン、Iターンを加東市へ!
北播磨は生まれ育った土地。空気もおいしい、ほどよく便利で住み心地もいい。田んぼが広がるのどかな雰囲気が大好きです。
そんな地元に私が役立てることは、やはり庭づくり。最近は、加東市にも空き家が増えています。都心部からのUターンの人や、田舎で暮らしたいというIターンの人に「加東市に住みたい」と思ってもらうためには、家だけでなく庭のリフォームも大切だと思っています。
流行のグランピングが自宅の庭で楽しめてしまうのも、田舎ならではの魅力でしょう。庭と家との組み合わせで、住みやすい環境づくりに貢献したいと思っているんです。
従業員紹介
プランナーアシスタント 内藤由衣さん
「難しい?」 いいえ、「楽しい」仕事です
2022年4月に入社しました。施主様のご希望をおうかがいし、プランナーである社長が考えたプランを、CAD を使って3DCGパースの完成予想図をつくる仕事をしています。
富士川商事ヤシロ店に入社するまで、食品工場で製造を担当していました。3人目の子どもの育児休暇が明け、復職をどうするか迷っていた時、富士川商事ヤシロ店に勤める友人が紹介してくれたんです。工場とは全く違う世界に、一瞬「難しそうな仕事」と躊躇(ちゅうちょ)しましたが、勧められた言葉が「楽しいから」だったんです。「楽しい仕事っていいな」と思えたことで決心がつき、面談を経て働くことになりました。
実はずっと「接客業に就きたい」という夢と、「やりがいのある仕事がしたい」という想いを持ち続けていたんです。
*CAD:人の手で製作されていた設計図を、コンピューターで作図できるようにしたシステム
ずっと手にしたかった「やりがい」に出会えた!
私が就きたかった「やりがいのある仕事」とは、お客様に喜ばれ「ありがとう」と言っていただける仕事でした。製品と向き合う工場と違い、富士川商事ヤシロ店は、社内・社外に関わらず人とコミュニケーションを取る仕事。施主様と直接お話をし、完成を一緒に喜べることが一番の魅力です。
実は入社前、我が家の庭を施工していただいたのが、富士川商事ヤシロ店でした。社長のプレゼンテーションでは、庭のプランニングだけでなく、家と庭を組合せた3Dの完成予想図を見せていただきました。その時、「少しでも仕上がりをイメージしやすいように」と、施主を想う社長の姿勢が印象に残っていたんです。実際に完成した庭は、プレゼンテーションの画面で見たイメージそのもの! 「すごい!」という言葉しか出ませんでした。
そんな顧客としての経験を通して、仕事のやりがいを実感していたので、いい仕事だなと思っていたんです。
生まれた夢は、エクステリアプランナー
働き始め、最初のプレゼンテーションで「わぁ、ほんまにうちの家や!」と喜ばれた施主様の第一声が、忘れられません。
「庭の図だけ見たのでは、きっとピンとこないだろうけれど、富士川商事さんは家も一緒に入った完成予想図を見せてくださるので、仕上がりのイメージがわきますね」と、喜んでいただきました。私自身が体験した喜びが、そのまま仕事に反映され、施主様にも伝わることを実感できた瞬間でした。
将来の目標は、ヒアリングからプランニング、施工、引き渡しまで、一人でできるようになること。施主様に喜んでいただける外構プランを提案できる、エクステリアプランナーを目指しています。
「働きがい」と「働きやすさ」が揃った職場
庭に関する知識も無く、CADに触れたこともなかった私ですが、職場の皆さんに指導していただいたり、CADの勉強会にも行かせていただいたりしながら、毎日楽しく仕事をしています。
職場の楽しさに加え、富士川商事ヤシロ店の魅力は、「やる気やセンスのある人が、時間に縛られて働けないのはもったいない」と、働く人に合った環境を整えてもらえること。
子育て中の私も、保育園に通う子どものお迎えや急な体調不良への対応など、子どもたちの生活を優先させた時短勤務を認めていただいたり、時には在宅で仕事をさせていただくこともあります。従業員を大切にしていただける職場に出会えたことを、感謝しています。
文:内橋麻衣子/写真:高橋武男
※令和4年度 加東市商工会企業紹介PR事業